「ひと夏の…」サマーフィルムにのって 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)
ひと夏の…
映画部のはしの方、時代劇オタクのハダシが、映画部のど腐れ青春キラキラムービーを葬り去るくらいの傑作時代劇を、仲間と共に撮ろうとする話。
主演は活躍目覚ましい伊藤万理華、監督は放送中のドラマ『お耳に合いましたら。』でもタッグを組んでいる松本壮史。
2021年大本命と期待して臨んだ本作。
噂通りの傑作でした。
まずキャラクターが魅力的すぎる。
勝新が尊すぎる女子高生ハダシ、天文部の文系女子ビート板、剣道部で部活一筋のブルーハワイの3人組。
謎のタイムトラベラーで主役の凛太郎、老け顔筋肉自慢のダディボーイ、デコチャリ照明担当小栗、野球バカ音声担当駒田・増山、そして映画部の真ん中の花鈴や隼人。
キャラクターたちだけで語れるこの映画。
そして映画愛。
昨年の傑作邦画『アルプススタンドのはしの方』や劇中登場した『座頭市』、『時をかける少女』や『サマータイムマシン・ブルース』なども感じられる、映画がぎっしり詰まった映画。
近年問題となっている映画の倍速視聴やファスト映画に一石を投じるような部分も良かった。
YouTubeのショート機能やTikTokなど、数秒でいかに大衆の心を掴めるかというのが最近の傾向ともあって、劇中の「未来では5秒映画、1分は長編」という説は実際にありそうだと感心しつつも恐怖を感じた。
『アルプススタンドのはしの方』的な横の繋がり。
はしの方の人間だけを描いて真ん中を馬鹿にするのではなく、真ん中の本質にも迫る。
花鈴たちのことも毛嫌いしてるだけで、いざとなれば助け合える映画を愛する仲間たち。
同じ部室で編集作業してるのが嬉しくて微笑ましくて。
人と人を繋いでくれる映画。どんな映画が好きでも映画好きということに変わりはない。
時代劇でも青春キラキラ映画でもいいじゃない。
だから、この映画もアイドル映画だからとか邦画だからとか青春映画だからとか毛嫌いせずに観てほしい。
苦手なジャンルでも、万とある映画の中にきっとお気に入りを見つけられるから。
そして、ラストシーン。
一度は“「さよなら」をせずに共に未来へ”と書き換えた脚本を上映会で自らぶち壊して納得いくレベルまで持っていく。
やっぱりクリエイターって、本人がある程度満足できるくらいまでわがままに自分勝手に周りを振り回すくらいが良い。
正直あまり上手くないのでは?と思っていたまりっかの殺陣はキレキレで、ベストタイミングでの告白からの壁ドン。
時代劇と言いながら、これこそ胸キュンキラキラ青春映画じゃん!
そして「さよなら」からの斬り合いで幕が降りる。
なんとキレイな終着点。
これほど夏が似合う映画は久しぶり。
細かいところで言うと、リアリティが薄れがちな文化祭がここまでリアルだったのも良かったなぁ。
武士喫茶とか雰囲気が本物の文化祭だわ。
時代劇、SF、恋愛、コメディと色々な要素を詰め込んだ映画好きには堪らない一本。
もちろん映画好きじゃなくても、自己投影できて刺さる人は結構多いと思う。
夏休みは竜そばで!と言っていましたが、これもおすすめです。
ちなみに3人の中で強いて言うならブルーハワイ派。