劇場公開日 2022年8月26日

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「紋切り型人形劇」激怒 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

1.0紋切り型人形劇

2023年1月29日
iPhoneアプリから投稿

開始数分でうんざりさせられた。ゴミだらけのリビングの中で、ゴミだらけの机に突っ伏す男。彼が腕を動かすと、押し出し式メダルゲームの要領で机の上のゴミが床に落ちる。しかしどこか違和感がある。液体上のゴミが何一つ落ちていない。リビングの机の上であれば、ふつうカップラーメンの汁とか食べかけの漬物とか、そういうものが置いてあってもおかしくないのに、落ちるのは紙とか文房具とかいった乾いたものばかりだ。

そこが汚部屋であることを受け手に示す格好のショットであるにもかかわらず、片付けの面倒臭さゆえか単なる思慮の欠如ゆえか、ともあれ本作はここで液体上のゴミを何一つ落下させなかった。神は細部に宿る、などという一般論を振りかざしたいわけではないが、俺はその時点で既にうんざりしてしまった。

そして当初の予想通り、そこから展開される物語や人物造形にも精細さが欠けていた。どこかで見たことがあるようなサスペンスと復讐譚が延々と繰り広げられ、一つか二つの名詞でアイデンティティを総括できてしまいそうな紋切り型の人間たちが空虚な人形劇を演じる。

タイトルが示す通り本作は人々の怒りの感情のダイナミズムを暴力的筆致で綴ったバイオレンスアクションなのだが、人間の感情の繊細微妙なグラデーションが0か100かの二元論にデフォルメされている節があり、ゆえに彼らの怒りは単なる反射運動にしか見えない。熱いヤカンに触れて咄嗟に手を引くのと同じ。面白くもおかしくもない。

終盤、弱者差別的な言動を繰り返す町内会長に対して主人公が「誰だってれっきとした人間なんだ!」的な反論をするシーンがあるが、そのあとのバトルシーンではヒロインの女が無意味に乳房を露出させられていた。ここで露出させる意味はマジでない。女性への連帯の表明が単なるポーズでしかないことを自覚なく露呈させてしまう詰めの甘さに閉口した。

どうでもいいけど町内会のボスっぽいメチャクチャ図体のデカいデブだけは面白かった。明らかに普通の人類と比べて1.5倍くらいの体積があったと思う。

因果