シカゴ7裁判のレビュー・感想・評価
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脚本家ソーキンにとってはうってつけの素材
アーロン・ソーキンはとにかくダイアログの応酬を得意とする脚本家としてのキャリアを盤石なものにし、近年は映画監督業にも進出した。本作は、実話ベースに法廷劇を描くという、まさにソーキンの作風にピッタリの素材だと思う。キャスティングも秀逸で、理想家肌だが軽率で腹が座ってないエディ・レッドメインや、ヒッピー文化の徒花みたいなアビー・ホフマンを演じたサシャ・バロン・コーエンなど、演技の上でも見どころが多い。
ただ、作品としての弱点だと感じたのは、実話をベースにしつつ、現代にも響く社会派のテーマを立てるためにわかりやすい感動ものとしてアレンジしてしまったこと。まださほど昔ではない事件だけに、実話を改変したクライマックスなどは目的を優先して現実を単純化しすぎてしまったのではないか。
難しいことを簡易に描けることは脚本家の実力の証明であり、ソーキンにとっても本領発揮だったろう。もしかすると、その脚本を客観視できる別の監督が撮っていれば、また違う感想を持ったのかもしれない。欲張りな注文だとは思うが、監督としてのソーキンはいまだ発展途上なのかも知れないと感じた。
胸が熱くなった
反戦への思いに胸が熱くなった。裁判があまりにも理不尽すぎて…前司法長官の発言を陪審員に聞かせないとかも、それさあ聴衆も納得せえへんやろう。弁護人が自分のキャリアも気にせずに戦うところもかっこよかった。見栄を気にしていたエディが最後戦死者の名前を読み上げるところもグッときた。いい映画やなあ。
7とかいいつつ、1人は完全にとばっちりやよね。ほんまに気の毒。
ベトナム戦争 実話
Netflixオリジナル映画
ベトナム戦争が題材の映画はよくあるが、アメリカ側のデモの話は初めて見た。
ベトナム戦争に反対する市民たちが一致団結してデモをするが、だんだんと過激になっていく。
見せしめ(?)に逮捕された7人は理不尽な裁判を受けるというストーリーである。
裁判長が理不尽すぎて7人に味方したくなる。
ジョセフゴードンレヴィットが主人公かと思っていたら、アメリカ側の弁護士役だった。
真面目な題材ではあるが、結構見応えがあって面白かった。
最後のエディ・レッドメイン演じるデモのリーダーが、裁判長に短く反省を述べたら量刑を考慮する、と言われたのに戦死者を全員読み上げるシーンは感動した。
映画が割と好きな人にはオススメできる映画!
我らの血が流れるなら、街中を血で染めろ!!
1968年。ベトナム戦争のさなか、
シカゴの公園で大規模な「ベトナム戦争反戦デモ」が開かれた。
警察隊と衝突。
4500人以上が重傷を負った。
このデモを主催して《暴動を扇動した罪》に問われた7人と
ブラックパンサーの1人の裁判を描いている。
熱気とスピード感のある映像です。
被告の7+1名。
個性的で一癖も二癖もある寄せ集めの反戦メンバー。
ブラックパンサー党のボビーは、度重なる挑発的発言を繰り返し、
遂には猿ぐつわを嵌められ、机に縛りつけられる。
公衆の面前で公然とBLMが行われる衝撃的シーンだった。
更にその公判中に「ユダ&ブラックメシア裏切りの代償」
の映画の主人公のであるブレッド・ハンプトンが
頭をFBIに打ち抜かれて殺された。
裁判の終盤の「デモ」の再現シーンの迫力が物凄い。
暗闇の中で警察隊の催涙ガスが煙り、
クローズアップで警官とデモ隊の衝突は、激しくて、
殴りかかる警官、火炎瓶投げる学生、警官に掴みかかる学生・・・
と臨場感と迫力そして緊張感ある映像だった。
その後、
主人公であるトム・ヘイデン(エディ・レッドメイン)の実際に
録音されたテープが公開される。
トムは電信柱に駆け上がった未成年者へ警官が頭蓋骨を割られ
負傷する姿に我を忘れ、
「我らの血が流れるなら、街中を血で染めろ!!」と、
扇動演説をして、デモ隊は暴徒化したのだった。
物静かなトム・ヘイゲンと、その扇動演説の落差。
対してもう1人の主役、アビイ・ホフマン
(サシャ・バロン・コーエン)
アビイは常に人を食った発言で、笑いをとる。
この人の存在がこの映画にユーモアを加えている。
それにしても1968年。
ベトナム戦争は泥沼化して、兵役の徴集人数を倍々に増やして、
政府は死体工場(戦地)に若者を送り続けている。
これを怒らずにいられようか!!
アーロン・ソーキン監督は、
「平和な抗議が暴動へと発展してゆく過程を描くこと」
が、この映画の第一の目的だったと言う。
裁判の判決の日。
ラストシーン。
トムが読み上げる、裁判中に戦死した4500名以上の兵士たちの、
名前、
年齢、
階級、
戦争の虚しさと残酷さに、
陪審員も、
傍聴席も、
検事でさえ、
立ち上がり弔意を示す。
深く胸を打たれた。
実話だと実感できる映像
実際の写真や映像を交えてデモの様子を再現していた。まったく勝ち目のなかったのにじわじわと勝利がみえてきたり、そしてまた奈落の底に突き落とされて絶望的になったり。
ラスト戦死者をひとりひとり読み上げた時は一緒になって立ち上がりこぶしを高くつきあげた。
しかし、裁判長は最後までクソだった。
政治裁判…
これは古代あるいは独裁国家の裁判なのかと思うほど、初めから有罪を決めつけている判事のもとで行われる裁判。少し前の実話というのが恐ろしいし、それを覆し、正しい判決が下ったことにホッとする。セブンのメンバーには入ってないブラックパンサーのシールが冤罪だったなんていうのも、当時の黒人差別が色濃いし、法廷での猿轡も昨今のBLMを想起させる。法廷モノ故に台詞も多く、吹き替えで見て正解だった。
とても面白い
圧倒的権力が無理くりで市井の人を苦しめ、それに力いっぱい対抗している様子が美しい。前の司法長官が証人席に立つところは鳥肌が立つ。「控訴しろ」と一言いいおいて去るところもかっこいい。7人って5人じゃないのかとずっと気になった。
検事も苦しんでた
アメリカのベトナム戦争前後の歴史や政治に詳しくなくても、十分にストーリーに入り込めました。
もうハラハラしました。
いくつか山場がありますが前司法長官が出てきて証言して⤴︎!陪審員の前ではダメ、記録もなしで⤵︎
テープが出てきたところではまさかこれでジ エンドかよー!と思ったけど…
ヘイデンがすごく生身の人間らしさ溢れている。ふざけたこともいうアビーを軽い気持ちで自分達より意識が低いみたいな見方もしてたり、判事に意思表示で起立をしないって決めたのに反射的に起立しちゃったり。
レニーが毎日戦没者を記録してたのをちゃっかりいいところで生かしてくれたけどね。
でもシュルツ検事も内心はかなり苦しんでたよね。
8人目を最悪な状況から、救い出してくれたのも彼だ。
異を唱える勇気
エディ・レッドメイン(アメリカの反戦活動家トム・ヘイデン)、マーク・ライランス(ウィリアム・クンスラー弁護士)、マイケル・キートン(ラムゼイ・クラーク元司法長官)他、キャストの渾身の演技が秀逸。熱演に引き込まれました。
監督、脚本を手掛けたアーロン・ソーキンによるリアルな映像が、ミャンマーや台湾のデモの映像と重なり、今尚続く彼らの苦悩を思った。
映画館での観賞
whole world watching!
政権が変わり国の有力者が変わると
法律や正義の解釈が変わる。
その度に我々は流される。
不条理に流される。
けど、確固たる意思は必要だ。
その訴え方周りの巻き込み方によっては、
世間の考え方を変えることもできる。
涙が流れる。閉塞感を超えての先へ。。
さすがマイケル・キートン!
見て良かった。
世界が見てる
スピルバーグが監督の名に挙がったり、キャストも二転三転。脚本家組合のストライキで製作ストップも。
完成まで紆余曲折あったハリウッド長年のプロジェクト。
コロナ渦で残念ながら劇場公開は見送られたが、Netflixによる配信でようやく!
作品は、待った甲斐があった!
1968年、ベトナム戦争下。それに対する抗議デモ。平和的に行われる筈だったデモが暴動に。煽動したとして、7人の男が逮捕される。裁判が開かれるが…。
ハリウッド映画と言えば、ド派手な予算とCGを駆使したアクションやSFが十八番だが、こういうヒューマニズム溢れる作品も…いや、こういう作品こそハリウッド作品の王道。
社会派、メッセージ性、裁判モノが好きな自分にとって、ドストライク!
とにかく見応えあった!
別国のひと昔前の戦争下の事だし、政治と司法絡みだし、実話だし、登場人物も皆実在。アメリカ近代史や背景を知らなきゃ絶対に退屈…
全く以てそんな事ナシ!
『ソーシャル・ネットワーク』など脚本家の印象強かったアーロン・ソーキンだが(『モリーズ・ゲーム』など監督も手掛けているが)、本作で監督として一気にキャリアアップしたと言えよう。
まず、開幕~7人の紹介~裁判の始まり。ノリのいい音楽と共にテンポ良く、本作が社会派映画という事を忘れ早々に引き込まれた。
勿論、社会派映画としてのずっしりとした見応え。
裁判はあまりにも不当で理不尽。“シカゴ・セブン”に勝訴の見込みなど微塵もない。
しかし、己の正義や信念を貫く。
思わぬこれ以上ない証人。
が、再び不当と理不尽の司法の壁…。
さらに、仲間内である人物の衝撃の真実。
果たして、彼らは裁かれる身なのか、それとも…?
希望の光が当たったかと思えば、その直後窮地に。見せ場の連続。面白さ、エンタメ性も抜群。
演出、脚本、編集など素晴らしいスタッフワーク。
でも一番の醍醐味は、スーパー・アンサンブル!
キャスト全員が最高の名演を魅せる。
エディ・レッドメイン。“シカゴ・セブン”の中で最も複雑な内面。クライマックス、ある窮地に…。
ヤーヤ・アブドゥル・マティーン2世。弁護士も付かず、裁判長からの明らかな人種差別や不当さにも屈せず、闘う。
ジェレミー・ストロング。ヒッピー風だが、暴動の際暴行を受けた女性を助けたシーンに心打たれた。
ジョン・キャロル・リンチ。虫も殺さぬ穏やかな男だったが、あまりにも理不尽な裁判に遂に怒りが爆発し、声を荒げるシーンは胸熱くなった。
ジョゼフ・ゴードン=レヴィット。若き検事。裁判に不本意を感じながらも任命され、7人を追い詰めていく…。
フランク・ランジェラ。裁判長。この裁判の不当、理不尽の塊。憎々しさはこの名優が全て請け負ってくれたからこそ!
マーク・ライランス。尽力し、頼りになる弁護士。さすがの名演!
中でも特に個性光っていたのが…、
サシャ・バロン・コーエン。
まるで本人そのもののような過激で挑発的な言動を繰り返す。故に、裁判長からは目の敵。
作品に毒のあるユーモアももたらすが、シリアスな演技も。
クライマックス近くでの証人席。
個人的に印象的だったのは…、TVなどのメディアに露出。記者からギャラは?…と聞かれ、それに対しての返答。
「俺の命だ」
コーエンは本作でオスカー助演男優ノミネートは確実視されているそうだが、混戦の今回、個人的には受賞に一票!
裁判映画のラストは、勝訴か、敗訴か。
しかし本作は、ただのそれじゃない。
そもそも、誰の裁判か。
…いや、何の為の抗議デモだったか。
忘れてはならない。4700人以上の戦役者たちを。
アメリカ側だけではない。何の罪も無く犠牲になったベトナム一般人たちへも。
忘れてはならない。
世界が見てる。
今でも。ずっと。
それは政治的意図だったのか、スチューデント・パワーへの憎悪だったのか。
司法は法により違法を正す。個人的な価値観やイデオロギーを持ち込む判事も、「力を持つもの」におもねる判事も、あれですが。アメリカは、正に大統領選に関して、全開で誰かにおもねってるみたいです。シャレにならんよねぇ。
感動した。今のご時世、色んな事が頭に浮かんでしまうけど。
今日の政治と司法の問題は、一旦は、全て忘れて感想文。
◆時代背景 - 混沌の時代
1968年の民主党大会は、次期大統領の候補者指名のための大会。「大義無き戦争」として歴史に名を刻むベトナム戦争への反対派の旗手は、ロバート・ケネディでしたが暗殺されてしまいます。戦争反対派は、ベトナム戦争を始めたジョンソン政権の副大統領であったヒューバート・ハンフリー指名への抗議活動のために、シカゴに集まって来ます。
当時のアメリカ国内情勢は、混沌としていました。皆徴兵制に反対する学生を中心とした反戦運動の高まり。イッピーと呼ばれる、政治的思想を持つヒッピーの一部は、共産主義を基本とした思想を持ち共同体を理想とする若者たちで構成されていました。そして、黒人解放運動。
1968年頃と言うと、おそらくスチューデント・パワーの運動が、次第に暴力的にエスカレートし始めた頃。1968年5月の「5月危機」がきっかけとなり、騒乱はパリから全世界へ伝搬して行きます。
その前年、1967年にはデトロイトで黒人と警官隊が衝突。州兵のみならず、ジョンソン大統領令により連邦軍までが出動する事態となった暴動では、43人が死亡していました。
イッピーのアビー・ホフマンとジェリー・ルービンは有名人でした。映画の中でも、ユーモアとウィットと風刺的な態度が描かれていましたが、彼らの活動は非暴力ですが辛辣でした。2000人が手をつないで輪を作ってペンタゴンを取り囲み、「空中浮揚させるぞ!」なんて言う、ふざけた抗議活動を行った事は有名です。1968年の民主党全国大会時は、「本物のブタ」を自分たちの候補者として担ぎ出し、民主党をおちょくっています。
◆政治裁判
時の大統領は、共和党のニクソン。彼は、戦争を終結させるためにキッシンジャーを和平交渉に派遣する等の努力は、した人ですが、その交渉を有利にするために一時停止していた北爆を再開し、非難も浴びました。
「反戦」への理解はしつつも、 スチューデント・パワーやイッピーの抗議活動が広がって行く事も、ブラックパンサー党の様な「黒人自治」も許容は出来ない。と言う事なのでしょう。
「見せしめ」としての政治裁判は、民主党のジョンソンから大統領を引き継いだ、共和党のニクソンの元で始まりました。
◆明らかな演出(史実との不一致部分)
裁判で量刑が言い渡される前、トム・ヘイデンには発言が許されます。「手短に」と念をおした上で、ヘイデンは5000人余りの戦没者の名前を読み上げて行きます。
事実は、彼が判事の制止を無視してリストを読み上げたのは、公判中であった1969年10月の「ベトナム反戦デー」での事。彼の「主張」は強制的に終了させられています。
映画の中では、このラストが、本当に最高でポロリーンでしたけど。
物語を盛り上げるための、演出ですw
◆製作陣とキャストが最高過ぎ
脚本・監督は、「モリーズゲーム」に続いての法廷劇となったアーロン・ソーキン。製作の中で目立つのは、「ラ・ラ・ランド」等のマーク・プラット。音楽は「ハーレイクイン」等のダニエル・ペンバートン。撮影は「フォード vs フェラーリ」等のフェドン・パパマイケル。もうね、最高です。
役者さんも渋い実力派が集まってます!
その後、政治の世界に進み、ジェーン・フォンダとの結婚・離婚歴のあるトム・ヘイデンにエディ・レッドメイン。
アビー・ホフマンのサシャ・バロン・コーエンは、「レ・ミゼラブル」でテナルディエ役(コゼットを養っていた宿屋の主人)を演じてたんですね。レッドメインとは、そこで共演してるんだ。
ボビー・シール役のヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世は、「ザ・グレーテスト・ショー・マン」で、ゼンデイヤのお兄さん役の空中ブランコ乗り役だった人。
デリンジャー役で監督作もあるジョン・キャロル・リンチは、先日「宇宙人ポール」を見たばかりw
若き敏腕検察官リチャード・シュルツ役は、「インセプション」のジョセフ・ゴードン=レヴィット。
フレッド・ハンプトン役のケルヴィン・ハリソン・Jrは、「イット・カムズ・アット・ナイト」「ルース・エドガー」「WAVE」「J・Tリロイ」「ネクスト・ドリーム」と、もう乗りに乗ってます。
弁護士クンスラー役、マーク・ライランスは「ダンケルク」「レディ・プレイヤー1」にも出演していた演出家・劇作家。
良かった。とっても!
いやぁ、本当に見ごたえありました。
アメリカらしい戦い
観ていて心躍る作品ではあった。民衆やら大衆やらを演説で、時には過激なパフォーマンスをして惹きつけそして心の火を燃え上げ、理不尽な社会や世の中と闘い正していこうとする。まさにアメリカらしい戦いである。
冒頭から判事の態度は横柄で気分が悪い。(同じ名前を否定するあたりは特に…)
それが最後に勝利を得たときはグッときた。戦没者の名前を読み上げ、各々が追悼するところは非常にアメリカらしい姿であぁいう姿非常に憧れる。
他のレビューさんのレビューにもあるようにこの出来事を事前に詳しく知っているともっと楽しめたかなというのが個人的な課題でもあった。
お手本のような脚本ですが、予習はしておいたほうがいいと思います。
圧倒的に不利で、不当な裁判。
弁護団の中の人間関係でも様々な軋轢、そして紆余曲折がありながらも、最後は正義が勝つ。
この裁判のアメリカにおける司法史的な意味や後世の社会学的な分析での位置付けは分かりませんが、映画的には〝勝利〟と言える結末です。
そのラストシーン。
・〝俺の法廷〟での裁きを前に、その昂揚感と陶酔感を抑えるかのように上から目線で量刑の話をする悪徳判事。
・素直に平伏したかのように、復唱するエディ・レッドメイン。
・一気に訪れる大逆転の深い感動。
7人のその後が語られるエンドロールで更に余韻が深まります。
キャスティングと合わせて、出来過ぎなくらいの脚本
だと思いました。
ただ、ある程度、登場人物たちの関係性や事件の概要、あの時代のアメリカの空気感みたいなものは事前にネットで確認しておいた方がいいと思います。不勉強なくせに予習無しで観てしまった私は、始めの15分くらいは字幕を追いかけながら人物像を把握する脳内作業でだいぶ疲労を感じました。
感動的なラストシーン
1968年8月、イリノイ州シカゴで、大統領選挙を前にして民主党の全国大会が開かれることになっていた。その年の4月にはマルチン ルーサー キング牧師が、テネシーメンフィスで暗殺され、6月にはジョンF ケネデイ大統領の後を継いで民主党選挙キャンペーン中だったロバートF ケネデイが、カルフォルニアで殺されていた。また、ベトナム戦争が深刻化していて、沢山の若者が徴兵で駆り立てられベトナムで命を落としていた。
民主党大会で数万人の支持者が全国から集まって来ることから、シカゴでは民主党学生組織は1万人規模の集会とベトナム戦争反対のデモを予定していた。またブラックパンサー党も集会を持ち、ヒッピーも1万5千人の集会と音楽祭を開催する予定でいた。それに対して、政府は1万5千人の完全武装の警官隊、1万人のナショナルガードを配備した。当日は、デモの衝突によって多数の負傷者が出るが、8人の活動家らが暴力扇動共謀罪で、起訴された。
初めはブラックパンサー党のボビー シールが加わり8人の被告だったが、ボビーは独自の弁護士を立てたことから、被告は7人となり、彼らのことは、「シカゴセブン」と呼ばれるようになった。「シカゴセブン」が、なぜ全米中で注目されるようになったかというと、
1)平和的なデモが一方的に、完全武装した警官隊とナショナルガードによって暴力の場となった。
2)逮捕、起訴された8人は、デモの前に一度もあって共謀したことがなく共通した運動形式も同じ信条も持っていない。
3)にもかかわらず、検察は彼らが暴動を共謀して起こした、として起訴した。
4)デモ隊のなかにFBI員を潜入させたり、ウルトラ右翼に扇動させた証拠がある。
5)反ベトナム運動で初めて暴力扇動共謀罪が適用された。
などの理由による。
「シカゴセブン」は、民主党学生組織のトム ハイデン(エデイ レッドメイン)のグループと、国際派ヒッピーを自称するアビー ホフマン(サシャ、バロンコーエン)とジェリー ルビー(ジェレミー ストロング)の2人のグループと、ブラックパンサーのボビー シール(ヤシャ アブダルマテイーン2世)の3つのグループに分かれ、運動体の目的も全く異なり、3つの組織に共通する信条はなかった。裁判は2年に渡って審議されたが、ベンジャミン スポック、ノーム チョムスキー、ジュデイ コリンズ、ノーマン メイラーなどの知識人らが被告たちを擁護し、アピールを出すなど、裁判を支援した。裁判長、ジュリアス ホフマンは共和党支持の悪名高いタカ派で被告らの人権など考えもしない強硬なやり方で、裁判を進め、弁護士事務所を盗聴したり、陪審員を買収したり、裁判長自ら不正行為をした。
シカゴセブン事件当時、ジョンソン大統領は直接ラムゼイ クラーク司法長官に、デモを暴動化させてどんどん逮捕しろ、と指令を出していた。FBIを使って情報を集め、ウルトラ右翼に組織を混乱させるよう働きかけもしていた。様々なスキャンダルが明るみに出たが、裁判所は、ブラックパンサーのボビー シールに4年間の懲役刑を言い渡し、それに抗議したシカゴセブンには、懲役5年の実刑を言い渡す。
映画は法廷でのやり取りが中心で、検察と弁護の喧々諤々がスリルに満ちていて、引きずり込まれる。2時間全然飽きない。この映画の中心になる人権活動家で弁護士のウィリアム クンスラー(マーク ライランス)と、トム ハイデン(エデイ レッドメイン)の活躍が目を引く。二人とも英国人だが二人とも、映画ではアメリカ風の発音でしゃべっている。おまけにマーク ライランスは典型的イギリス人紳士なのに映画では似合わない長髪だ。エデイ レッドメインはオックスフォード大学で、プリンス ウィリアムの学友だった。裕福な家庭出身で在学中、本格的な機材で自由に映画をいくらでも作らせてもらった、という幸運な人だ。東京生まれの役者が台本通りに大阪弁で役を演じるのを見たときに違和感を感じるのと同じように、映画が始まってすぐ、レッドメインが学生に向かって演説を始めた途端、やっぱりアメリカ人には違和感があるらしく、「変な発音ー!」と誰かが言うのが聞こえて、ちょっと笑った。
民主党学生組織のレッドメインと、ヒッピーのサッシャ バロンコーエンとは、ぶつかってばかり。意見の違いというよりもヒッピーの思想自体が認められないレッドメインが、「文化革命なんて夢ばっかりみてるんじゃねえよ。」と叫ぶが、社会改革をまじめに取り組む側にとってはヒッピーはつかみどころがない。法廷でもベトナム解放戦線の旗を法廷に持ち込んだり、ヒッピー二人して裁判官のローブを着て出廷、怒った裁判長にローブを取るように言われると、その下には警察官の制服を着ている、というように裁判そのものをちゃかすのは面白いが、裁判の進行妨害をすることに意味があるのかないのか。
映画の一番の盛り上がりは、司法長官ラムゼイ クラーク役のマイケル キートンの出廷だろう。裁判長の独善により陪審員のいない法廷で、彼が、ジョンソン大統領がデモを暴動化させるように仕向けた、と発言したとたんに巨大な渦のような拍手の音、しかしその事実は政府の機密に関わる、とされて裁判陪審員には伝えられない。
またデモ隊が完全武装装備の警官隊に行く手を阻まれ、仕方なく方向を変えて別の方向に向かう。すると再び銃を構えた別の警官隊がデモ隊の向かう方向で待ち構えている。怒るデモ隊をなだめてまた別方向に行くと、さらに行く先を警官隊がふさいでいる。怒って警官隊に突っ込んでいったデモ隊を、催涙ガスと警棒の乱打が待っている。このようなことが繰り返されて暴動を起こしたのは、学生達か、挑発したのは警官隊かが法廷で問われる。デモ隊のなかにFBIの女や、ウルトラ右翼が巧妙に配置されていて、挑発した証拠も残っている。暴動を挑発したのは警官隊のほうではなかったか。しかし、「突っ込め、やっちまえ」と言ったのは僕だ。とトム ハイデンは苦しんだ挙句、正直に言う。彼の良心の発露を貶めてはいけない。
忘れてならないことは、この事件のあった1968年、米国では徴兵制があったことだ。若者は義務としてベトナムに派遣された。進んでベトナムのジャングルに入り女子供を殺しに行ったわけではない。国の法律に逆らえば国賊として刑務所に入ることを意味した。そうした中での反ベトナム運動だった。米国で徴兵制度が廃止されたのは、ベトナム戦争後1973年だが、徴兵制度復活を主張する根強い要請があり、徴兵復活案が議会で否決されたのは2004年のことだ。
映画は被告たちが、5年の懲役を言い渡されて終わるが、実際はその2年後に上訴審で懲役刑は取り下げられた。民主党学生組織のトム ハイデンはカルフォルニア議会で上院、下院議員としてその後も活躍、女優で活動家のジェーン フォンダと結婚する。2016年に76歳でなくなったそうだ。ジェーン フォンダの方は、83歳でいまだ現役活動家、先日も、ブラック ライブマターのデモで逮捕された。すごい人だ。
国際派ヒッピーを自称していたアビー ホフマンは1989年に自殺、ジェリー ルビンは1994年に事故死したそうだ。
この映画は始めステイブス スピルバーグが監督し、パラマウントが制作する予定だった。スピルバーグは、レッドメインが演じた役をヒース レジャーに演じさせる予定だったが、ハリウッドの全米脚本組合のストが長引き、俳優組合にまでストが波及して映画が作れなくなり、ヒースも死んでしまって、それをNETFLIXが買い取ったという。
映画製作ではNETFLIXは、前作メキシコのアルフォンソ キユアロンが「ROMAローマ」でアカデミー外国語映画賞を受賞した。どうしても、今年はアカデミー賞作品賞をとりたいNETFLIXとしては、是非ともこの映画で作品賞を取りたいと意欲満々だ。アカデミー作品賞の候補にはなるだろう。
映画最後の場面は感動的だ。第1回目の上映が終わり、映画を見終えた人々が目を真っ赤にして泣き顔で出てきた理由が、わかる。良い映画だ。見て損はない。
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