「世界が見てる」シカゴ7裁判 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
世界が見てる
スピルバーグが監督の名に挙がったり、キャストも二転三転。脚本家組合のストライキで製作ストップも。
完成まで紆余曲折あったハリウッド長年のプロジェクト。
コロナ渦で残念ながら劇場公開は見送られたが、Netflixによる配信でようやく!
作品は、待った甲斐があった!
1968年、ベトナム戦争下。それに対する抗議デモ。平和的に行われる筈だったデモが暴動に。煽動したとして、7人の男が逮捕される。裁判が開かれるが…。
ハリウッド映画と言えば、ド派手な予算とCGを駆使したアクションやSFが十八番だが、こういうヒューマニズム溢れる作品も…いや、こういう作品こそハリウッド作品の王道。
社会派、メッセージ性、裁判モノが好きな自分にとって、ドストライク!
とにかく見応えあった!
別国のひと昔前の戦争下の事だし、政治と司法絡みだし、実話だし、登場人物も皆実在。アメリカ近代史や背景を知らなきゃ絶対に退屈…
全く以てそんな事ナシ!
『ソーシャル・ネットワーク』など脚本家の印象強かったアーロン・ソーキンだが(『モリーズ・ゲーム』など監督も手掛けているが)、本作で監督として一気にキャリアアップしたと言えよう。
まず、開幕~7人の紹介~裁判の始まり。ノリのいい音楽と共にテンポ良く、本作が社会派映画という事を忘れ早々に引き込まれた。
勿論、社会派映画としてのずっしりとした見応え。
裁判はあまりにも不当で理不尽。“シカゴ・セブン”に勝訴の見込みなど微塵もない。
しかし、己の正義や信念を貫く。
思わぬこれ以上ない証人。
が、再び不当と理不尽の司法の壁…。
さらに、仲間内である人物の衝撃の真実。
果たして、彼らは裁かれる身なのか、それとも…?
希望の光が当たったかと思えば、その直後窮地に。見せ場の連続。面白さ、エンタメ性も抜群。
演出、脚本、編集など素晴らしいスタッフワーク。
でも一番の醍醐味は、スーパー・アンサンブル!
キャスト全員が最高の名演を魅せる。
エディ・レッドメイン。“シカゴ・セブン”の中で最も複雑な内面。クライマックス、ある窮地に…。
ヤーヤ・アブドゥル・マティーン2世。弁護士も付かず、裁判長からの明らかな人種差別や不当さにも屈せず、闘う。
ジェレミー・ストロング。ヒッピー風だが、暴動の際暴行を受けた女性を助けたシーンに心打たれた。
ジョン・キャロル・リンチ。虫も殺さぬ穏やかな男だったが、あまりにも理不尽な裁判に遂に怒りが爆発し、声を荒げるシーンは胸熱くなった。
ジョゼフ・ゴードン=レヴィット。若き検事。裁判に不本意を感じながらも任命され、7人を追い詰めていく…。
フランク・ランジェラ。裁判長。この裁判の不当、理不尽の塊。憎々しさはこの名優が全て請け負ってくれたからこそ!
マーク・ライランス。尽力し、頼りになる弁護士。さすがの名演!
中でも特に個性光っていたのが…、
サシャ・バロン・コーエン。
まるで本人そのもののような過激で挑発的な言動を繰り返す。故に、裁判長からは目の敵。
作品に毒のあるユーモアももたらすが、シリアスな演技も。
クライマックス近くでの証人席。
個人的に印象的だったのは…、TVなどのメディアに露出。記者からギャラは?…と聞かれ、それに対しての返答。
「俺の命だ」
コーエンは本作でオスカー助演男優ノミネートは確実視されているそうだが、混戦の今回、個人的には受賞に一票!
裁判映画のラストは、勝訴か、敗訴か。
しかし本作は、ただのそれじゃない。
そもそも、誰の裁判か。
…いや、何の為の抗議デモだったか。
忘れてはならない。4700人以上の戦役者たちを。
アメリカ側だけではない。何の罪も無く犠牲になったベトナム一般人たちへも。
忘れてはならない。
世界が見てる。
今でも。ずっと。