「すぐれた演出力」シカゴ7裁判 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
すぐれた演出力
人は群衆のとき、やはり烏合ではないか──と思う。
烏合となれば、先導者の思想が反映されない。
個人的には、そこに浅はかさを感じる。
国は非倫理な戦争をやっていたし、若者が平和を愛する気持ちはわかる──けれど、国を相手にして、混乱なく集会ができる、と信じているのは、けっこう浅はかだ。
それは現況、わたしたちの社会では、反体制をかかげる人がりこうに見えない。からでもある。
しかしその当時は社会がカオスだった。
公民権運動があり、都市で暴動があり、ケネディ大統領も弟の上院議員も暗殺された。議会では左派と保守がかんぜんに決裂していた。
その特殊な時代性や、特殊な背景をかんがみるなら、たんじゅんに彼らの行為や理想を、わたしたちの考え方とは比較できない。
参看できない別世界の話だ。
幾人かのインフルエンサーがこの映画を賛美しているのを見た。
それが、たんじゅんに映画を楽しんだ──ということであれば、うさんくささはないのだが、いまの政治と比較した批判をともなっており、とほうもなくうさんくさかった。
現代人が、迫害もされず、毎晩ビールでも飲んで、叫び声も爆弾も降ってこないところで、子羊のように安らかに眠るのであれば、カオスな時代との比較はナンセンスだ。
裁判はさいしょから出来レースだった。
そもそも強行した集会も、化けた私服たちに、みごとなほどあっさりとハメられる。
判事からしてかんぜんな体制主義であり、全体としてJoseph Gordon-Levittが演じた検事以外は、はなから、活動家たちをハメて追い落とすことしか考えていなかった。
ところがコートが長引くほどに民衆が7人の味方につく。
言ってみれば、それを予見しなかった体制側も、けっこう浅はかだった。
エディレッドメインがうまい。いうなれば学生運動指導者なのだが、38歳にして、その理屈っぽくてナイーヴな感じを出していた。
Sir Mark Rylanceもうまい。スター性のまったく見えない疲弊した民間の弁護人の感じが、体制側の対極になっていて、好配役だと思った。
Sacha Baron CohenとJeremy Strongのコンビ活動家も、がんらいのキャラクターを生かして好演だった。が、個人的には好ましい人物像ではなかった。
なんていうか、かれらが引き連れてきたのは、所謂ヒッピーではなかろうか。
おそらくその傘下には、クスリをやってラブアンドピースを叫んでいる不埒な連中も大勢いたと思う。そういう、終始ふざけた態度でいながら、現実世界で、発頭人なポジショニングができてしまう人間が、個人的には好きではない。
そんな人間にたいするトムヘイデン(エディレッドメイン)の不信頼が、映画にはよくあらわれていた。
が、それを言うなら、志願して、あるいは徴兵され、ベトナムで戦い、身体や心に傷を負ったものの、生き延びて帰還したひとたちは、シカゴ7や快楽的なヒッピー文化をどうとらえた、だろう?
いずれにしても、バラバラの目的意識の7人が、時の政府をはげしく揺さぶった──ことを映画はくまなく描ききっている。みごとだった。