劇場公開日 2020年10月9日

「【守るべきもの】」シカゴ7裁判 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5【守るべきもの】

2020年10月18日
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ベトナム戦争のアメリカの死者は約5万8千人。
新型コロナの死者数が、この数を超えたと比較して話題になるほど、アメリカにとっては、これからも続く負の遺産だ。

ベトナム戦争は、インドシナ戦争を引き継いで、第二次インドシナ戦争と呼ぶ人もいるが、差し詰め前者が植民地主義の戦争とすれば、ベトナム戦争はイデオロギーの戦争だった。
自由主義と社会主義の戦い。

現在、トランプが大統領選を繰り広げる中で、バイデンを社会主義者と呼んで差別しようとするのは、アメリカ社会の特に白人層に社会主義を毛嫌いする風潮が残っているからに他ならない。

この裁判で、シカゴセブン+1が戦っているのは、検察ではなく、どちらかと言うと裁判官と権力だ。

アメリカでは、最高裁判所の判事を大統領が指名するなど、その政治信条が色濃く出る司法システムになっている。
つまり、それは判決にも結果として出てくるし、陪審員裁判でも、陪審員の白山と黒人の割合によって、被告の判決が大きく変わることは珍しくない。
こうしたものは映画としても描かれている。

ただ、確かに、こうした裁判のプロセスや裁判官には怒りを感じるのだが、この作品では、被告側の心情や態度の移り変わりを描こうとしているところも実は興味深い。

それぞれ異なる政治信条、財政事情、インテリジェンスか無学か。当初は、まとまりが全くなく、相互が理解しようとする気配がないところから始まり、非難を繰り返したり、時には激昂したりしながらも、デモの本来の共通のモチベーションが何だったのかを見出していく。

もし、この作品にメッセージがあるとしたら、それぞれ異なる信条があったとしても、何か見出せる普遍的な価値が必ずあるのではないかということだ。

アメリカで今も行われている、#BlackLivesMatter のムーヴメントにしても、暴徒化し略奪に走る者もいる。
だが、冷静な行動と秩序ある大きな大きな塊となった要求こそが世の中を動かすのだということではないのか。

あの、戦死者の名前を読み上げる場面には、そんなメッセージがあるのではないのかと思う。

これは、ベトナム戦争の合計死者、行方不明者のおおよそのデータだ。

南ベトナム側
死者、約30万人
行方不明者、約150万人
民間死者、約160万人

北ベトナム側
死者、約120万人
行方不明者、約60万人
民間死者、約300万人

この数字の示すところは膨大な死者、行方不明者の数だけではなく、南北のブレイクダウンの差も実は興味深い。

何を感じるかはそれぞれ違うと思う。
ただ、説明は割愛するが、僕は、ベトナム人にとってこれは、イデオロギーの戦いではなく、アイデンティティの戦いであったのではないかと思うのだ。

この後、中国がベトナムに戦争をしかけるが、ベトナムは中国にも勝っている。

最後に、政治が司法に介入しようとする姿は、最近の日本にもあった。
そして、それは世論によって退けられた。
しかし、またゾロ、政権はトライしてくる。

僕達の現在の社会システムで守るべきは一体何なのかも考えさせられる作品だったと思う。

ワンコ