「登場キャラクターたちの悩みや人間関係が丁寧に描かれた良作」アイの歌声を聴かせて Bigcatさんの映画レビュー(感想・評価)
登場キャラクターたちの悩みや人間関係が丁寧に描かれた良作
私にとってはBlu-rayも持っているくらい気に入っている作品です。再上映の機会があり、公開当時以来約4年ぶりに映画館で鑑賞することができました。
小説やコミックなどの原作がなく、本作品のためにストーリーやキャラクターが創作された、いわゆるオリジナルアニメと呼ばれる作品です。
原作ありのアニメに比べると、ストーリーや物語設定が今ひとつになってしまいがちなオリジナルアニメですが、本作品はそのような心配が当てはまらない貴重な作品だと思います。
序盤の短時間で、各キャラクターがどんな人物であるかが無理なく理解できるよう配慮されているので、原作がなく事前知識をもっていない観客にもすぐに作品の世界観に引き込まれていきます。
ミュージカル的な要素も違和感を持たれてしまいがちですが、人間ではないシオンが歌うという設定のため、ポンコツAIだからそういうこともあるか、と比較的誰にも受け止め安くなっているのもうまいと思います。
設定や伏線がうまく考えられているのはもちろんですが、登場キャラクターたちの悩みや人間関係について丁寧に描かれていて、共感できるところが多いというのが、やはりこの作品の一番の良さだと思っています。ちょっと現実では(まだ)あり得ない世界のを使って、現実世界で起こるさまざまな葛藤を見せてくれているのがいいなと感じます。
また、今回の鑑賞でいまさらながら気づいたところがありました。シオンたちの通う高校で、序盤で絵の具か何かでやたらと色とりどりによごれた水道の場面のところです。
絵を描いている場面があるからなのか、でも絵の具を使って描いているシーンはなかったような、と、今までなんとなく違和感も持ちながら見ていましたが。どうもモデルとなった(エンドロールのクレジットにもある)学校のためなのではと気づきました。
作品の設定では新潟県の佐渡にある高校ということでしたが、モデルとなった学校は佐渡ではなく、埼玉県立芸術総合高校でした。普通科がない芸術系学科のみの高校で、絵の具を使って絵画を描く美術科もあることから、実際に学校の水道のところが作中どおり色とりどりになっていたのでしょう。おそらく製作スタッフさんも気に入って、そのままアニメにも使ったのではないでしょうか。そのように想像することで、長年の違和感が解消できました(正解かはわかりませんが)。
AI技術が更に進み、いつか現実世界の方がこの作品を追い越してしまいそうですが、その頃になってもサトミの母が経験したような社内闘争の方はなくならないのでしょう。そういうのもなくなるような進んだ世の中が実現できれば、今とは一段階進んだ人類登場ということになるのかもしれません。
また時々何度も見返したい作品です。
