劇場公開日 2021年1月15日

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「善人も悪人もいない、あるのは行いの善悪のみ」聖なる犯罪者 ニコさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5善人も悪人もいない、あるのは行いの善悪のみ

2021年1月21日
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鑑賞方法:映画館

 神父になりすました前科者ダニエル自身について描くと同時に、彼が触媒となってあぶり出される周囲の村人の善意や悪意を描いた物語でもある。なお、R18作品ではあるが、エロ・グロに関し耐性が必要なレベルのハードな映像はない(主観)。
 寡黙な主人公の人物描写は、主演のバルトシュ・ビィエレニアの眼力で成り立っている。何を考えているか分からない感じがすごい。出所してすぐ酒と薬をやって反省のない様子を見せ、その上で偶然も手伝って村の教会に入り込む。神父に憧れていたとはいえこの素行から先が思いやられたが、多少エキセントリックな挙動をしつつも、仕事を与えられれば本人なりに予習までして、思いのほか真面目に働く。だが、悪事を起こさなくてもあの顔面なので、次にどう動くか分からない空気感は常にあり、むしろなかなか正体がばれず悪さもしないことが不気味にさえ思え、画面の緊張感が緩むことはない。
 彼がもっと下卑た悪人面だったなら、予想外に司祭の仕事をこなしてしまう姿が不自然に見えたかも知れない。ところが、考えの読めない表情が醸し出す妙に浮世離れした雰囲気と澄みきった瞳のせいか、司祭としての姿が刑務所での姿と同じくらい自然で、かつ美しいのだ。同じ人物の役柄で挙動をあまり変えず、この対照的な姿を自然に見せられるのはなかなか稀有なことではないだろうか。
 ダニエルの行動を見ているうちに、こちらの善人と悪人の判断基準が揺れ始める。やがて村人の行動に視点が移ると、いよいよその定義に懐疑的になる。その後のラストは、観る者に深い問いかけを残す。人や物事を表層や特定の一面のみで判断していないか、そんな自省を促す作品。

ニコ