「違和」レベッカ 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
違和
映画が好きでヒッチコックがきらいというひとはいません。サイコ裏窓ダイヤルM北北西めまいロープ・・・ぜんぶいいです。が、さて、どんな映画だったかと言われてみると、ストーリーを思い出せるものは、ほとんどありません。知りすぎていた男は、男が知りすぎていた映画です。──と言えるていどの記憶です。ヒッチコックの映画は、ミステリアスな雰囲気や技法に魅入られるのであって、ロジカルに理解するわけではありません。
レベッカもとても印象的な映画でした。
とうぜんレベッカといえばヒッチコックにあったよな。と思いつつ、この映画を予備知識なく見始めた。わけです。
冒頭にマンダレーの夢を見たのくだりがあるのでリメイクとわかりました。
すると映画はヒッチコックのレベッカの記憶との相対となってしまいます。
フォンテインとオリビエがでていました。モノクロの陰影を生かした映画でした。フォンテインがとてもきれいでした。屋敷の家政婦長が、恐ろしい雰囲気をかもしだしていました。
おぼろげ記憶ではありますが、ヒッチコックのレベッカが念頭にあるなら、この主人公はぜんぜん違います。フォンテインは、もっとか弱く、未通女なかんじでした。
Lily Jamesは、意志も気も強い女性です。
ながくふとくりっぱな眉、咬筋の豊かなエラ、据わっている眼差し、にじみ出る──と言うより、あふれ出る負けん気。
これらは不屈の闘志とか、フェミニズムの旗手とか、そういう主題のなかで生きる顔付きです。
がんらいKenneth Branaghのシンデレラでも、彼女の力強さはかんぜんな違和でした。
わたしはすこしも彼女を守ってあげたくなりません。
むろん彼女が生きる主題をもった映画のなかで見るならLily Jamesは素敵な女性に違いありません。
が、まちがいなく、恐怖に怯えるレベッカの主人公ではなかった。と思います。
つまりヒッチコックのレベッカを見ているなら、まるで正反対の役者を、わざわざ充ててきたような破壊的配役でした。
映画はソツのないつくりでした。予算もしっかり割り振られ、衣装も舞台も、演技力にも、難はありません。またアーミーハマーは好き嫌いを生じにくい、けれん味のない俳優です。総じて、レベッカのストーリーを辿っていけば、及第を得られる作品でした。
が、もしあなたがヒッチコックの大傑作レベッカを見ているなら、うつくしいJoan Fontaineのおもかげが、たとえちょっとでも念頭にあるなら、これはぜんぜん違うはずです。
またヒッチコックは家政婦長のJudith Andersonの顔にモノクロの陰影を当てて、恐怖感を引き出していましたが、それとそっくりのことをKristin Scott Thomasにやっています。やってはいけないやつだと思いました。
夜、懐中電灯を持っていたら、かならず誰かが、顔に下から電灯を当てて「ばぁ」ってやりますよね。人種を問わず、誰でもやります。あれはレベッカからきている──とは言わないけれど、レベッカは光を当てるところと、光を当てないところの黄金比を発明した、とてつもない映画だった──と思うのです。