「フローレンス・ピュー。ここに有り。」レディ・マクベス 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
フローレンス・ピュー。ここに有り。
17歳。究極の自己中心な欲望
2016年(イギリス)監督:ウィリアム・オルドロイド。
自分の欲望を満たすために次々と殺人を重ねていく主人公のキャサリン。
フローレンス・ピューの初主演作でキャリアスタートのきっかけとなった。
原作はニコラス・レスコフの「ムツェンスク郡のマクベス夫人」
映像が額縁に飾られた絵画のようなシーンが美しく、文学や美術の香りがします。
また風景(平原の雲や木立ち川と林など)が素晴らしい。
キャサリンの青色のドレス。
フェルメールの絵画「真珠の首飾りの少女」が着ているような青いドレス(深みのある艶やかな青色)が、
美しく、フローレンス・ピューの女子力を挙げている。
文芸作品のカテゴリーですね。
背徳文学作品。
貧農の娘ながら裕福な商家に嫁いだキャサリン。
40歳の夫はキャサリンに触れようともしない。
夫が仕事で留守をしたある日、キャサリンは使用人のセバスチャンと関係を持つ。
あまりにも悪びれない堂々とした不倫。
黒人の使用人女性アニタが心を痛める様子とは反比例している。
罪深い女は堂々としていて、心を痛めるアニタは声を失う。
不道徳を楽しみワインをがぶ飲みして、人生を謳歌する17歳の幼な妻。
《生きることは楽しむことよ》
そんな声が聞こえる。
しかし口うるさい義父が突然死して、葬儀に帰って来た夫と馬を殺してしまうキャサリンと愛人のセバスチャン。
特筆すべきことは、殺人鬼に反省も良心も欠けていること。
悪い事をしたなんて思いもしない。
その点、セバスチャンには人の心が残っていて苦しみます。
その辺の太々しさをフローレンス・ピューは20歳の若さで、
《天性の殺人者》を演じて流石です。
意外なことにキャサリンには自己愛が見えて来ず、
木嶋佳苗(独居老人に色仕掛けで近づき、金を奪う目的で練炭自殺に見せかけて何人も殺したとされる死刑囚)とは違う点も興味深い。
あどけない顔で殺人を実行するキャサリン。
フローレンス・ピューの存在を世界に知らせて、「ミッドサマー」
「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」への抜擢につながった記念すべき作品です。