「予想通りの筋立て、と思わせておいて、そこから一気に掘り下げていく語り口がみごとな一作」ベイビー・ブローカー yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
予想通りの筋立て、と思わせておいて、そこから一気に掘り下げていく語り口がみごとな一作
子役の演技指導に定評のある是枝裕和監督だけど、今回は新生児なので、もちろん意図的な演技指導は不可能。それなのにこの赤ちゃんの振る舞いは作品に完全に溶け込んでいて、どうやって撮影したんだろう、と驚くほど。是枝監督によると”奇跡の連続”の撮影だったらしいけど。
基本的には赤ちゃんの(人身)売買を生業とする男達とそれを追う警察、そして事情があって赤ちゃんを手放すことに決めた母親らが引き起こす状況を追った物語で、少なくとも冒頭の流れとしては予告編が提示する内容に沿っています。だが是枝監督の本領は、そこから一人ひとりの人物像を掘り下げていくところにあって、今回もその手腕はいかんなく発揮されています。
同じ「車」を多用する映画と言っても、『モガディシュ』のような派手なアクションは一切ないんだけど、とにかく鑑賞中ずっと、「この人達のことをもっと知りたい」と思わせてくれる、そんな作品です。ソン・ガンホらがなぜ人身売買に手を染めるようになったのか、なぜ母親は子供を手放さなければならなかったのか、といった動機が明らかになっていくのはもちろんのこと、なぜ刑事二人がこれほど執拗に事件を追い続けているのかにも焦点を当てており、それまで脇役にしか見えなかった若い刑事(イ・ジュヨン)の、静かだが、鬼気迫る一言で、一気にその存在感が増してくる様はみごとです。
赤ちゃんだけでなく、もちろん俳優達の演技も素晴らしく、主演のソン・ガンホは顔の向きだけで極端な二面性を持った人物を演じるというすごさ。結末での彼の振る舞いのさりげなさも印象深い作品です。
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