「倫理観が迷子になる」ベイビー・ブローカー バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
倫理観が迷子になる
是枝裕和監督は『真実』では、ちゃんとフランス映画を作ってみせたが、今作もちゃんと韓国映画。日本要素はゼロだ。つまり世界から”日本らしさ”など求められていないのだ。それは『ドライブ・マイ・カー』が評価されていることからも察するだろう。これに関しては別の機会に改めて解説したいと思う。
赤ちゃんポストに捨てられた赤ちゃんを売るブローカー、その子の母のソヨン、そしてそれを追う刑事コンビによるロードムービーが描かれる。
ブローカーといっても、ただ大金を積まれれば売るというわけでもない、その子が幸せな環境で育つことができるか、転売する恐れはないかなどを見極めて、納得できた人にしか売らないという、妙なポリシーを持っている。
実際に金銭での売買を成立させるブローカーなのにと思うかもしれないが、そのまま赤ちゃんポストに預けられた場合が幸せなのかと考えると、そうも言えない現状もある。
そう考えてしまうと、手段や目的はブラックであっても、恵まれた環境の養父母に渡るのであれば、結果的に子の幸せは、どちらにあるのだろうか……といったように、命や将来を基準として考えた場合、私たちが普段持ち合わせている倫理観なんてものは、脆いものだと思い知るだろう。
何が正しいことなのか、何が悪いことなのか……常に倫理観を試され、抉られているような重圧なテーマでありながらも、子どもを売る旅の中で築かれていく、疑似家族のような関係性には、思わずほっこりとさせられてしまうコミカルな要素も敷き詰められている。
だからこそ、余計に考え深いものがあるのだ。
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