「「異化効果」は不発」ベイビー・ブローカー 山の手ロックさんの映画レビュー(感想・評価)
「異化効果」は不発
是枝監督がソン・ガンホを主役に迎え、韓国資本と組んだ新作は、「パラサイト」を彷彿とさせる雨の坂道のシーンから始まる。
登場人物の心情の機微を繊細かつリアルに描く是枝監督と、バイタリティやダイナミックさが持ち味とも言えるソン・ガンホ及び韓国映画界が組むことで、ある種の「異化効果」のようなものが現れることを期待して観た。
設定はシリアスだが、人の良さそうなブローカーたちと、訳ありで気の強い母親が、赤ちゃんの貰い手を求めて、おんぼろバンで一緒に出かけ、ロードムービーが転がり出す。しかし、どうもうまく転がっていかない。ブローカーの逮捕を狙う女性刑事や、母親が犯した事件に関わるエピソードが、物語にうまく絡んでいない感じ。
フィクショナルでサスペンスフルな設定から、役者の自然な演技と丁寧な画面づくりで観客を引き込んでいくのが、是枝監督の近作の持ち味だが、今作ではセリフに頼りすぎている感じがするのは、字幕ということもあるのだろうか。残念ながら、期待した「異化効果」は不発だった。
冷静に考えると、そもそも「人身売買」という設定は感情移入しづらいよね。ラストはハッピーエンドのようだが、最初からそういうシナリオだったのか、撮影しながらそうなったのか、気になるところ。
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