劇場公開日 2022年6月24日

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「血縁ではないもので結ばれた家族の巡礼をやさしく見つめる養父母を求めて流離う韓流版『リトル・ミス・サンシャイン』」ベイビー・ブローカー よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0血縁ではないもので結ばれた家族の巡礼をやさしく見つめる養父母を求めて流離う韓流版『リトル・ミス・サンシャイン』

2022年6月27日
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鑑賞方法:映画館

『アジョシ』、『ただ悪より救いたまえ』、『バニシング 未解決事件』と人身売買や臓器売買を題材にした作品が多い韓流映画ですが、それは悪しき商売として描写されるのがデフォルト。それを覆したのが『声もなく』で、そこでは人身売買は野菜でも売買するかのように淡々と行われていました。そして本作では更に踏み込んで人身売買をWin/Winのビジネスにしようと奮闘する話にしています。そこは当然荒唐無稽な話であり眉を顰める人もいるでしょうが、それは是枝監督の『万引き家族』でも敢えて試みられたこと。万引きや車上強盗、覗き部屋でのバイト等後ろ指を刺されるような稼業に手を染めざるを得ないまでに追い詰められた人々が家族を形成する『万引き家族』に対して、本作は赤ちゃんポストの前に捨てられた子供を介して人身売買ブローカーの二人組と孤児と子供の母親が出会い、養父母を求めてさすらいながら家族を形成する話。そして『万引き家族』より一歩踏み込んでいるのが、人身売買の現場を押さえてブローカーを現行犯逮捕しようと執拗に彼らを尾行する刑事コンビと子供と母親を追う謎の男をドラマに絡めていること。この複雑なプロットは非常に韓流的ですが、直視したくないような凄惨な場面を敢えて詳細に見せつけることでドラマに深みを持たせるような韓流的演出はほぼ取り除かれているので、その非韓流的なアプローチに是枝監督の作家性が滲んでいる気がしました。

この世に生を受けた時から持っている血縁と偶然が積み重なって繋がった縁には本質的な違いはないことを繰り返し見せた後に訪れる結末は様々な感情を静かに揺さぶるもの。養父母を訪ねて回る旅はまさしく巡礼であり、そこには『リトル・ミス・サンシャイン』の巡礼と同質の優しい贖罪があります。

しかし本作が封切りされた日に米国の連邦最高裁判所が“ロー対ウェイド“裁判以降半世紀に渡って支持されてきた“中絶は憲法で認められた女性の権利”とする判断を覆したという報道があったのは衝撃的でした。それは決して民主的な判断ではなく、福音派の信者であるペンス前副大統領がこの判断に歓喜するツイートをしたことでも明らかな通り極めて政治的かつ宗教的な背景を持つもの。福音派がもたらす救いとは異なるものを鮮烈に描いた『三姉妹』とともに本作は今まさに観るべき作品です。

ちなみに本作には『三姉妹』の長女を演じているキム・ソニョンも出ているのでそこにも奇妙な縁を感じます。

よね