「自然との共存、自由の希求」ウルフウォーカー しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
自然との共存、自由の希求
『ブレッドウィナー』以来、カートゥーン・サルーンのケルト三部作が気になっていた。前作はまだ見れていないが、今作は劇場公開の機会に巡り逢えて嬉しい。
題材は世界各地に残る獣人の伝承。肉体ごと変化したり、映画のように霊魂的な存在などパターンは様々だが、異形と恐れられ、或いは自然信仰と結び付いて尊ばれ、キリスト教下では異端とみなされた。敵役の護国卿は、敬虔なキリスト教徒で、狼を駆逐し、森を開発し、人間を栄えさせる事が神の御心だと信じて邁進している。
自然と開発の対立、共存模索のテーマは、昨今の作品で多く見られるが、近代的な消費拡大の方法論に限界を感じ始めた現代人の自問の表れだろうか。
自然の化身とも思わせられる森の女の存在感、中世封建制の窮屈さに苦しみ、心のままに森を駆ける狼の自由さに魅せられる少女ロビンの姿は、ブレッドウィナーにも通じる、抑圧からの女性解放の強い想いを感じさせる。
自然と共に、家族との絆を大切に、自分らしく。それが昨今理想とされる価値観なのだろう。
極度に図案化されたキャラクターや紋様めいた動植物、透視図法を無視した壁画のような背景の描き方など、独特のビジュアルが。アーティスティックでとても美しい。『Gorogoa 』『Sky』『GRIS』など、絵画的な世界が動くゲームが好きで、その為に苦手なアクションにもチャレンジしたりする身なので、この世界に浸れる散策ゲームを開発してくれ!と思う程だった。匂いや音に敏いウルフウォーカーの感覚を可視化した映像が、新鮮で面白い。世界観に寄り添う音楽も心地いい。
自然は人間に優しいだけの存在ではない。人間の都合に合わせるだけでは共存は叶わない。複雑で根の深いテーマを描くには、若干論理が大雑把な側面もあるが、子供が主人公の物語で、余り救いがないのは辛くなっちゃうので、ハッピーエンドに終わって良かった。
世界の何処かに、今この時も、人ならざる者が潜み暮らしているかもしれないというのは、古今東西普遍のロマンなのだから。