劇場公開日 2020年10月31日

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「民主主義の根本的な難しさに触れた作品」私たちの青春、台湾 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5民主主義の根本的な難しさに触れた作品

2020年11月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

世界中で民主主義が困難に直面している。台湾は東アジアにおける民主主義の優等生と言われる。しかし、内情はそんなに単純なものではないとこの映画は明かしている。台湾独自の問題もたくさん描かれるが、それらを通して見えてくるのは民主主義が本質的に抱える難しさだ。
ひまわり運動で行政府を占拠した若者たちは、透明性のある政治を求めて行動を起こした。その当人たちが、占拠中にデモの方針を不透明な密室で決めてしまう。そのことを当人たちも矛盾していると感じている。
運動のリーダーだった青年は選挙に出馬するが、過去のスキャンダルが発覚して失脚。側近メンバーが思わず本音で「コネでもみ消せないかな」と漏らすのをカメラは捉えている。リベラルで多様な価値観を認めるはずの若者たちが、中国人留学生を国籍だけを理由に排斥する。
矛盾だらけの民主主義。でも、立ち止まらず反省し、かろうじて前を向く監督の誠実さは特筆に値する。誰かに期待を押し付けないこと、それがいかに残酷なことなのかに気が付くこと。民主主義の本質的な困難さを乗り越えるためには、本作で監督自身が発見したことを、多くの人が気づく必要がある。

杉本穂高