「香りや味わいが伝わってきそうな幸福感」ノッティングヒルの洋菓子店 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
香りや味わいが伝わってきそうな幸福感
この物語は思いがけない悲しみと共に始まる。観る側としても「えっ!」と言葉を失いつつ、次第に結束を固める3人のヒロインを自ずと応援してしまう作品だ。閑古鳥の鳴いていたお店が、徐々に活気に包まれていく筋書きは極めてオーソドックス。だがオーソドックスだからこそ、その内部を緩やかに彩っていく楽しさが生まれる。何より見た目が楽しくって、美味しいし、机上にスイーツがずらっと並ぶ時、焼きたての香りが映像を介して伝わってきそうで、なんともたまらない気持ちに包まれる。捻り出される起死回生のアイディアも、あらゆる人種の入り乱れるロンドン、さらには無数のコミュニティが織りなすノッティングヒルという地域ならではのもので、「なるほど」と納得させられた。ただ、見終わってからふと思う。コロナ禍で彼らは今どうしているだろうか。この温もりの明かりが灯される日々が早く戻ってきますように。そう強く願わずにいられなくなる一作だ。
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