劇場公開日 2021年11月27日

  • 予告編を見る

「侵されているのは国の「中枢」と言う痛烈な皮肉」水俣曼荼羅 GAJIさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 侵されているのは国の「中枢」と言う痛烈な皮肉

2025年10月22日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

原一男監督による水俣病問題を追ったドキュメンタリフィルム。

水俣病は「52年判断条件」により認定されてきたが、2004年の最高裁判決でその条件が覆される。しかし国は認定基準を見直さない。
従来、末梢神経の障害があることが認定基準とされていたが、実は脳の中枢神経が侵されていることこそが水俣病の水俣病の病像であると言う仮説を、熊本大学教授浴野成生氏 熊本大学二宮正氏のお二人が立て、地道な診療を重ねた結果が2004年の関西訴訟の勝利の決め手であったことから始まる。

だが、医学会でも彼らの研究は無視され、被害者側からも積極的な協力を得られず研究は遅々として進まない。
2025年現在、欲野医師は熊本を離れ、とある総合病院の検診センターに勤めているらしい。

前作の「ニッポン国VS泉南石綿村」と全く同じ構図で、意図的な認定基準を設け、多くの被害者が未認定となり取り残される。
未認定社は認定を求めて裁判を起こす。認定基準に意図があるため、原告が勝つ。被告側は控訴を繰り返し時間と金が浪費され、原告側は疲弊していく。長引かせるのは原告側が音を上げて諦めるか、死ぬかを待っていると疑われても仕方ないだろう。

厚労省などの役人、県知事や担当者などは「末梢神経の一部」でしかなく、本当の病巣は国の「中枢」であるという、痛烈な皮肉が6時間に及ぶ映画全編に横たわっている。

原監督は自身とこの作品を「中継ぎ」と捉え、クローザーたり得る作品の登場を示唆する。
水俣病は終わっていないと改めて気付かされた。

最後に愛読書である「苦海浄土」の作者、石牟礼道子氏の姿を見られたのは眼福であった。
彼女と全ての水俣病犠牲者の冥福を祈ります。

GAJI