「デル・トロらしさあふれる美しいダークファンタジー」ギレルモ・デル・トロのピノッキオ あふろざむらいさんの映画レビュー(感想・評価)
デル・トロらしさあふれる美しいダークファンタジー
タイトルに「ギレルモ・デル・トロの」とあるように、オリジナルとは違う物語になっている。
とはいえ、デル・トロ監督の作品は好きだし、製作会社の中に「ジム・ヘンソンカンパニー」が入っているからか、「ダーククリスタル」の空気感を思い出させてくれたこともあって、かなり満足度が高かった。。
ゼペットじいさんにはカルロという子どもがいた設定になっている。
カルロは賢くて素直だったが、死んでしまう。
カルロの墓の近くに松の木が生える。じいさんはその木を切り倒して人形をつくった。森から精霊がやってきて人形に命を吹き込み、ピノキオと名づける。このころは1930年代で、舞台となっているイタリアはムッソリーニが支配するファシズムの国になっている。
原作に登場したキツネとネコは登場しない。
かわりに没落貴族のヴォルペ伯爵がピノキオの人生を左右する悪役として登場する。
他にはファシストの市長もピノキオを「不死身の兵士」として戦場に送ろうとする。
本作はキリスト教的な思想が強く出ている。
原作もゼペットじいさんがくじらに飲み込まれて腹の中で生活しているエピソードは、ヨナの物語をそのまま引用しているので、キリスト教的な考え方に基づいている。そう考えるとデル・トロは原作の思想をより強調したとも言える。
冒頭、ゼペットじいさんは教会のためにキリスト像を作る。その教会が爆撃を受けてカルロが死ぬ。磔刑のキリストが強調されるシーンだ。
次に、ゼペットじいさんが木彫りの人形を作り、森の精霊が命を吹き込む。これは、聖書でいうところに三位一体(父と子と聖霊)の構図になっている。じいさんが神で、ピノキオはキリストのメタファーだ。
これは、後半でピノキオがヴォルペ伯爵に焼き殺されそうになるシーンで、念押しのように示されていて、ピノキオは十字架に縛りつけられている。
ただ、この設定だと、ゼペットじいさんが巨大な魚に飲み込まれるエピソードで矛盾が生じてしまう。三位一体の構図でじいさんが神なら、魚に飲み込まれるのはヨナではなくて神自身なのか? 聖書では神が魚を遣わしてヨナを飲み込ませた設定になっていたが。矛盾を解消するためには魚のエピソードをカットするしかないのだが、そうすると原作のピノキオにあったエピソードがほとんどなくなってしまう。
そう考えると、三位一体の構図は無理があったのではないか。
そんな矛盾を抱えつつも本作はいい映画だ。
デル・トロのファシズムへの抵抗というテーマがよく伝わってくる。
操り人形のように政府の言いなりに生きることを求められた時代において、操り人形であるピノキオが自分の意思で強く生きるというメッセージは、いつの間にか独裁政権が増えていた近年の世界情勢にマッチしている。
製作費54億円。
興行収入1,700万円。
この数字が正しいとすると大赤字なのだが、本当だろうか。