「実写邦画もやるじゃんと思ったらやっぱり邦画の悪い部分も出てた作品」ザ・ファブル 殺さない殺し屋 SIGさんの映画レビュー(感想・評価)
実写邦画もやるじゃんと思ったらやっぱり邦画の悪い部分も出てた作品
★4を付けたものの、本当は★3.5。
理由は評価出来る点が個人的に自分好みの理由だった為。
では何が評価出来る点だったかというと、本作のメインディッシュである団地での戦闘。
アクション自体は多くの大作ハリウッド映画に比べればミニマムだが、本作の良いところは大勢の住人にバレないよう配慮しながら戦うというのが、日本ならではの繊細さを生んだという点だ。
これがハリウッド映画なら見栄えだけを求めて辺り構わず滅茶苦茶にする。
だが本作は住民への配慮と敵との戦闘という本来なら相反する要素が矛盾する事なく両立しており、それがスイカに塩をかけるが如くお互いを引き立てている。
まさに静と動の相乗効果だ。
しかも団地というありふれた空間が、ハリウッド映画には出来ない日本人のみが受け取れる日本ならではの独特のリアリティを生んでおり、その点が更に素晴らしい。
この感覚はハリウッド版攻殻機動隊と比較すると分かりやすいと思う。
ここまでべた褒めだが、では悪い点はどこかというとそれはほぼ終盤に集中している。
最終盤に至り、ここぞとばかりに喚いたり泣いたりと日本人ならではの大げさで臭い演技と蛇足のようにクドい演出が爆発。
そして何より綺麗に収まる筈だった伏線がここで突然ぶん投げられているのだ。
演技や演出については今更言うまでもないが、伏線については明らかに当初のシナリオから変更されたと思われる点がいくつか見受けられる。
具体的に何かというと、貝沼の暗殺が中止された理由とヒナコの両親が殺された理由だ。
恐らくだが本来この二つは繋がっており、例えばヒナコの両親が売春組織暗殺の依頼主で、それに感づいた貝沼がこの二人を殺したため依頼主のいなくなったボスは暗殺を取りやめたとか、だ。
これで全ての線が一本になり話にまとまりも出るのだが、何故か中止理由は放置で両親殺した理由は売春組織のタレコミという程度の低いものに変えられている。
この時の貝沼は、仲間がファブルに次々に殺された上に二日前には弟がやられたばかりだ。
自分の命が危ないときにタレコミ如き相手を殺しに行くとか、馬鹿を通り越して病人レベルである。
更に言うとこの貝沼は他にも色々描写が不十分で、ファブルを狙う理由も中途半端、ヒナコを仲間にした理由も中途半端、最後の自殺同然行動の理由も中途半端である。
それらの理由を示した描写もゼロではないものの、最後の貝沼の心情を思いやるかのような演出は、それを観客が飲み込むにはそれまでの描写がまったく足りておらず、多くの人はここで置いて行かれただろう。
察するに、これら構成の不備は佐藤浩市氏の時間が取れなかったからだと思われる。
何故なら、これらはすべてボスの説明で事足りる事であり、恐らくは脚本も当初そのように組まれていたのだろうが、何らかの理由で佐藤浩市氏の予定が取れずに急遽シナリオを変更したのだろう。
ED後、本編に一切出てこなかった佐藤浩市氏が何の必然性もなく出てきたが、これは撮影どころか編集中にすら間に合わず、仕方なくすべてが終わった後から付け足しただろう事は想像に難くない。
それさえ無ければ、文句なしで★4を付けた筈なのに本当に惜しい作品だ。