劇場公開日 2020年10月17日

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「本作はスコットランド版の横溝正史の世界ではないだろうか?」ウィッカーマン final cut あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0本作はスコットランド版の横溝正史の世界ではないだろうか?

2021年5月28日
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鑑賞方法:DVD/BD

ウィッカーマンとは、枝細工で編んだ大きな人形のこと
高さは数メートルくらい
枝細工なので中は空洞
鳥籠のようになっていて内部に生贄の動物を閉じ込める大きさがある

日本でも秋田県湯沢市に、藁編みの数メートルはある大きな人形を集落の入口に建てる「鹿島様」という風習があるのをテレビで視たことがある
しかしこちらは巨大なかかしみたいなもので、内部に生贄を閉じ込めたりはできないものだった

しかし、どちらも土俗の風習であるのは同じだ

本作の舞台はスコットランドのとある小さな離島
領主が未だに隠然たる権勢を敷いている
ケルトの土俗の風習が強く、キリスト教に重きを置いていない土地の物語

何かに似てはいないだろうか?
本作はスコットランド版の横溝正史の世界ではないだろうか?
この島は獄門島みたいなものだ
いや終盤には洞窟に男女が逃げ込むのだから八つ墓村か

キリスト教が精神世界の根底に育った西洋の人々に取っては、キリスト教が敗退した土地というのは、そら恐ろしいことなのだろう
考えるだけで寒気がするほどなのだと思う

そこが私たち日本人には読みとれにくいことなのかも知れない
しかしそこにホラー的恐ろしさを感じ取れなければ本作の価値や意義が全く伝わって来ないと思う

私たち日本人が横溝正史の土着の古い習俗、因襲の世界に、空恐ろしいものを感じる以上のものがあるのだと思う

もし20世紀以前に本作を戯曲なりで上演しようものなら、群集が抗議に押し寄せて暴力沙汰になったに違いない
いやそもそも官憲によって公序良俗に反するとして上演禁止にされていたことだろう

それ程に冒涜的な内容なのだと思う
その意味で、同じ1973年12月に公開された「エキソシスト」と似ていると思う

ヒッピー文化の終わりの頃
キリスト教が象徴する既存の社会や体制といったものへの反抗精神の表出なのかも知れない

物語は5月1日のメイポールの祭りのケルト版のようなものが行われるから初夏なのだが、撮影は初冬に行われたという
そこを明るいカメラが初夏の日射しを、登場人物の服装を薄い初夏の装いで、無理にも初夏を表現している訳なのだが、空気は正直に肌寒さを映像で伝えている

その肌寒さ感が、本作に西洋の人々が本作から感じる精神的な寒むけを、キリスト教徒ではない私たち日本人にもそれを教えてくれている

特に祭りのシーンは見もの
仮装の衣装のデザインの秀逸さ、ストーンヘッジでの神楽
日本人の目にはその舞踊は神楽に見えるのだ

抜き身の剣を六芒星のように、首の高さで組み
そこに首を入れる儀式もまた際どい
もちろん魔除けと魔術的力を引き出す為のケルト式の儀式だろう
しかし六芒星はユダヤのしるしでもあるのだ

圧巻のラストシーン
ウィッカーマンが炎上し、真っ赤に燃えたその首が落ちる
その落ちた首の向こうに浮かぶものは、同じように空を真っ赤に燃やす夕陽なのだ
その美しいこと
悪魔的な美しさというべきものか

怪作、カルト映画の永遠の名作だ

あき240