「元の話の強さ」AWAKE Scottさんの映画レビュー(感想・評価)
元の話の強さ
冒頭に出る『電王戦の阿久津八段とAWAKE戦に着想を得て』を見た瞬間から、興味は「ハメ手を使うのか?」だけになるんだよね。
2015年の電王戦に出たAWAKEは、調整に不完全なところがあって、ある手順を指されると、角をただで相手にあげちゃうのが知られてたらしいの。ただ、全く道理に反した手だし、『そのバージョンのAWAKE』に特化して通用する手だったから、『プロがこの手を使うのは邪道だろう』みたいな見方もあったのね。
でも、阿久津八段はその手順をとり、角を取られることが確定した時点で開発者の人は半ばキレ気味で投了したんだよね。
『そんな邪道な手順を使うのは卑怯だ』っていう考えもあるだろうし、『勝つために最善手を選ぶのはプロとして当然』っていう考えもあるだろうし、悩ましいとこなんだよね。
この話を物語にするなら、普通は、『そんな邪道な手は使わん!』っていう選択肢にして、正々堂々と勝つか負けるかする話にすると思うの。「どうやって、その流れにもってくのかな」と観てたら、なんと、邪道な手を使って棋士を勝たせた。
ただソフト開発者と棋士に過去の因縁を持たせて、開発者は『強いと思ってもらえれば、それでいい』っていうモチベーションにしたのね。それで棋士が『強かったよ』って言って、なんだか良い話にするのがうまかったな。
細かなところでいうと、吉沢亮がプログラムを覚えるときに、落合モトキが『暗記してこい』って本を渡すんだよね。それで、吉沢亮がそれを黙々と読むんだけど、そんなことしないね。本に書かれてるプログラムを写経のようにひたすら打ち込むはず。
あと、AWAKEが考えるときに、プログラムリストが表示されるんだけど、それもないよね。評価値が表示されるなら解るんだけど。
それと、将棋サークルが居酒屋で将棋指してるシーンがあるんだけど、指すかな。居酒屋で。なんか無理があったな。
役者の使い方にも無理があったね。筧一郎の登場が唐突すぎるし、森矢カンナもそう。馬場ふみかに到っては「これ、誰かとバーターで出してって言われて、役作ったよね」って感じだったもん。
解説役や棋士役に役者さんを出してたけど、ここは棋士にカメオ出演してもらっても良かったね。感染対策とかあるから無理だったのかも知れないけど。
あとラストシーンでは、子供が若葉竜也と二枚落ちで指してるんだよね。タイトル挑戦者に二枚落ちで指せるって、相当強いよ。
細かなところでは、無理がいっぱいあるんだけど、元の話が強いから、それで、良い話になってたな。
思考中のプログラムに、ソースコード流すのやめて欲しかったな。それこそログで探索技の深さとか、評価値のリストとか出すとか、基盤のアップでとか描写を工夫して欲しかった