「映画である意味とターゲッティングに疑問……」AWAKE たけぱんさんの映画レビュー(感想・評価)
映画である意味とターゲッティングに疑問……
将棋関連ということで事前情報をあまり入れずに見に行きました。
「泣き虫しょったんの奇跡」は観ました。
本作の扱うAWAKE事件や将棋ソフトに勝ったら100万円!についてはリアルタイムで観ていました。
世界コンピュータ将棋選手権にはクラスタで参加する程度には熱心です。
この映画に出ている俳優さんは一人も知りませんでした。
一言で言えば電王戦におけるAWAKE事件と、その前段としてのAWAKEができるまでの映像(ただしノンフィクション前提ではない)ということになるでしょうか。
映画冒頭で「電王戦 阿久津主税八段vsAWAKE戦に着想を得て」と断り書きが入ります。
実際にすべての要素について詳しい訳ではないので、どれだけフィクションの要素が入るのかは分かりません。AWAKEの開発者と、対戦した棋士の名前は置き換わっています。「電王戦」「電王手さん」「デンソー」「ドワンゴ」などの固有名詞はそのまま登場。AWAKEの開発当初にBONANZAのオープンソース化に沸き立つ場面がありますが、これは少し時期がずれているような気がします。
映画ではAWAKE開発者と対局したプロ棋士が奨励会で何度か対局した関係であるとされていますが、実際の阿久津主税八段は1999年にプロになっており、AWAKE開発者の巨瀬さんは2002年研修会入会なので対局はしていません。
リアリティという意味では、開発者が大学で開発を行い、パートナーが将棋同好会に他流試合をしにいく点も疑問。大学に将棋部くらいないのか?同好会が強くなったAWAKEに歯が立たず、「強い。4・5段はある」と言う場面があるが、大学の将棋部ならアマ4・5段は普通に在籍していておかしくない。エンディングロールで協力に棋士個人名はなく、「日本将棋連盟」しか確認できなかったが、あまり口出しはしなかったのだろうか。
この映画を見に行く話をしたとき、ネットの知り合い(女性)が出演者にイケメンが複数出ている、という反応だったので嫌な予感はしましたが、別に俳優陣にどうこう、というのはありませんでした。
残念に感じたのは3点です。
(1) 映画である必要がない。将棋関連で言えばNHKで「うつ病九段」をやっていましたが、あのサイズで収まる題材だと思います。
(2) もっと表現方法があった、もっと説明の仕方があった。冒頭の長い符号のやり取りは映像化すれば良いと思った。思いの外時間が長いのでいつまでやるのか、という気分になった。また、AWAKEとの対戦で右側にずっとプログラムコードが流れていたが、実際とは違うと思われ、事実と違うデフォルメだとしても、ものすごい勢いで候補手が更新されていくとか、ノード数が猛烈な勢いでカウントされていくなど、コンピュータ将棋ソフトの凄さが可視化される表現方法があったように思う。また、先手・後手の評価値が正反対になっていなかったり、コンピュータ画面に表示される情報が常に1文字ずつ出てくるタイプライター型だったのも古臭い表現方法で勘弁してくれよ、という気分になった。
(3) 開発者がプログラミングしている時間、プロ棋士がAWAKEと事前対局している映像の時間がとにかく長い。内容に対して119分の上映時間はうんざりするほど長いので、100分程度に収めることができたのではないか、という点。
とりあえず映画内の表現でハメ手を使ったプロ棋士、ソフトが選択した訳でない「投了」をした開発者、どちらかを悪者として結論づけることになっていなかったのは良かった。(日本将棋連盟も止めると思うが)
結局、どのあたりをターゲットにしていたのかが分からず、AWAKE事件の映像化だけなら映画じゃなくても…と思った。将棋やコンピュータ将棋に詳しくなくても楽しめるような娯楽作品ならば、もっと説明的な部分があっても良かったし、ハメ手を「コンピュータの弱点」で片付けるのではなく、水平線効果なども映像化して分かりやすくするなど、工夫が欲しかった。