「▲6八玉と△2八角」AWAKE Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
▲6八玉と△2八角
藤井聡太二冠は言う、“将棋ソフト”(AI)と人間は「対決の時代を超えて、共存の時代に入った」と。
今では、プロ棋士はソフトを“コーチ”として、研究に取り入れている。その歴史的いきさつを描いた作品である。
映画にも出てくるが、2013年(本当は2009年)にBonanzaのソースコードが公開され、ディープラーニングによって急速にソフトが強くなり、あっという間に人間を抜き去った。
冒頭では、「2015年の“AWAKE vs 阿久津戦”にインスパイアされた物語」と出る。
しかし“インスパイア”どころか、劇映画でありながら、一部は“再現ドキュメンタリー”と言っていい。
ストーリーは、2つの指し手を巡って進行する。
まず、初手▲6八玉。定跡にない手で、清田が奨励会を辞める浅川戦で指した手。さらに、清田がソフト作りにのめり込むきっかけとなった手だ。
そして、△2八角。ソフトの全幅探索の“バグ”に目を付けて、人間が誘導したハメ手だ。
自分のような“ど素人”でも、これらの手の異常さは理解できる。
しかし、この映画を観る人の多くは将棋を全く知らないであろうから、この肝心なところの意味内容がつかめず、あまり楽しめないのではないかと思う。
ストーリーは、清田が主人公とはいえ、途中から別世界の人間となった浅川の活躍も同時並行的に描かれる“タンデム”式に進む。
タイトル戦に敗れたため、清田の作ったソフトとの勝負をテコにして、もう一段の高みに昇ろうとする浅川。清田もまた、浅川に挑むラストチャンスと、心を震わせる。
奨励会時代のエピソードと真っ直ぐにつながっており、自分はなるほど! と感動した。
この映画は、「ソフト vs 人間」ではなく、フィクションを導入して、あくまで「人間 vs 人間」の物語へと展開させるのだ。
しかし、浅川のストーリーはスッキリしない。
清田は言う、「俺はプロの気持ちは分からない」。
そしてプロである浅川の選んだ答えは、実際の「AWAKE vs 阿久津戦」と同様、「あいつなら、あの手は指さない」はずの“ハメ手”だった・・・。
“再現ドキュメンタリー”なら、この通りだろう。しかし、劇映画であれば、もっと別の展開もありえたはずだ。
その結果、かなり生々しく、後味の苦いストーリーになってしまった。
この映画の演出面で感心したのは、クライマックスである。
清田は、浅川の指した3手目の▲6八飛を見て、すべてを悟ったはずだ。
しかし、映像は清田の表情を一切映さない。浅川の表情は映すのに対して、何手進んでも清田は後ろ姿のままで、その表情はうかがい知れない。
そして、AWAKEの指した△2八角の後で初めて、何度も小刻みにうなずく清田の顔が映されるのである。
自分には、「お前は、どうしても負けられないプロ棋士なんだなあ」と語っているように思えた・・・。
ドキュメンタリー的要素もあるので、いささかペースの悪い作品である。
ただ、伏線はしっかり回収されるし、ラストもきれいに終わるし、何より将棋という特殊世界のリアルが、良く描けている佳作ではないかと思う。
気付きませんでした。コメントありがとうございます。
まさにそうだと思います。映画にもでてきますが、対戦棋士には事前にソフトが配布されており、棋士はその実力を熟知していました。
阿久津八段は、大将戦に出てきたAWAKEには、正攻法ではほぼ勝てないことが分かっていたと思います。
浅川が"ハメ手"を選んだのは、将棋士(人間)はAWAKE(AI)に勝てないことの暗示ではないでしょうか?
将棋士が普段使わないような手を使わないとAIには勝てないことを示していたような気がしました!
そうですか、情報ありがとうございます。吉沢さんは、背中で長時間演技したのは初めてかもしれませんね。自分は“脳内勝負”という、この作品の世界観にぴったりの演出だと思いました。
ちなみに自分としては、もっともっと盤面をじっくり見せて欲しかったのですが、将棋をあまり知らない人には、あの程度でちょうど良かったのかもしれません。
私は何も知らない上で見ましたが、指し手のことや二八角などのことは何となくでも解って観てました。清田の背中は監督が「映画の肝だ」と何度も吉沢亮さんには言い続けたそうです(笑)あのシーンから投了しますまでのシーンガ本当に良かったです!