「着眼点が良いので次回作に期待したい新人監督さんです。」AWAKE 東鳩さんの映画レビュー(感想・評価)
着眼点が良いので次回作に期待したい新人監督さんです。
オリジナル作品でありながら、将棋のAI(開発者)対プロ棋士のドラマという大衆が興味を持つ題材を選んでくる時点で、この監督さんは将来性があるなと思いました。
個人的な傾向として新人監督の作品を好んで鑑賞していますが、大体は画がきれいなだけでテーマがよく分からないアート(っぽいだけの)作品だったり、手垢まみれの青春ものだったりするので二度目は観ません。
が、この監督さんは着眼点が良いので次の作品も観たいと思いました。
ただ、難点もいくつか。
1.冒頭のキャストコメント動画が全くプラスになっていない。
若葉竜也がリップサービスのつもりかもしれませんが「将棋をまったく知らない」と平然と発言しているんですが、これを聞いて良く思う観客はいないでしょう。
本人の好感度ももちろん下がるし、観客は「将棋を知らないで、なんとなくフリで演じてんだなコイツ」ってずっと思ったまま鑑賞しなきゃいけなくなります。
まぁこれは製作者の判断で付けているから監督さんが悪いわけではないかもしれませんが。
2.脚本が荒く、主人公の感情の流れ、ライバルの感情の流れが分かりにくい。
幼少期の将棋対決では主人公がライバルに勝利しているのに、時間が経過して十代後半になると主人公が何故か将棋で弱くなっています。
同性代のほとんどに勝てなくなっていますが、この理由がよく分かりません。
そして、ライバルに負けたことで棋士の夢を諦めるんですが、主人公はすでに誰にも勝てなくなっているんだからライバルが特に強いことが引き立ってません。
同性代のトップと圧倒的な落ちこぼれなので、2人が特別なライバル関係にはとても思えないんです。
それから将棋のAIソフト開発者という夢を見つけた主人公と、プロ棋士になったライバルの半生がずっとカットバックで交互に描かれるわけですが、主人公の半生もライバルの半生もそんなにドラマが起きないし、お互いの人生が交差もしないので、全然盛り上がらない面白くない下りが続きます。
後半で再び将棋のAI(開発者)対プロ棋士として対戦することになるわけですから、このドラマをもっと盛り上げるために、途中でもっと伏線をバラまけた気がします。
「定石ではない自由な手」にこだわり続けたが故に転落し、そして、だからこそ再起できた主人公。
どんな手段を使っても勝たなければいけない宿命のプロ棋士の悲哀。
そういう二人のキャラ造形、感情の流れをもっと丁寧に構築出来ていれば、最後の勝負がもっと盛り上がったと思います。
あと、相手をリスペクトするために素直に「負けました」と言える主人公になるのは最後だけで良かったと思います。
幼少期は素直に負けを認められない性格だったので、ラストに「負けました」と言うための伏線か、やるなと思っていたら、指導者にすぐ矯正されていたので勿体ないと思いました。
矯正されないままだったら、負けを認めない人間だったら、ラストに「負けました」を言うことでもっと感動があったと思いました。
3.画作りがやや下手。
ラストの方で特に目立ったんですが、ずっと揺れてる画が多かったです。
カメラマンが下手なのか監督の指示か分かりませんが、揺れずにそのカットで撮りたいものをちゃんと決めて、固定して撮って欲しかったです。
臨場感を演出しているつもりかもしれませんが、どのカットもずっと揺らいでいるから気持ち悪いだけです。やるならここぞというところだけで手ぶれの画を使って欲しいと思います。
4.ラストが将棋会館の廊下で終わればベターでした。
ラストが空港のロビーで偶然再会した主人公とライバルが子どもを介してまた将棋するシーンで終わるんですが、その前の将棋会館の廊下のシーンが良かったので、そこで終われればベターでした。あのラストは蛇足でした。
編集も監督さんがご自身でされているようでしたが、あれを切れないのなら別に信頼できる編集マンを見つけて監督さんは編集は止めた方がいいです。そのほうがもっと良い映画を作れます。
色々と辛辣なことも書きましたが、今年観た新人監督さんの映画の中では37セカンズのHIKARI監督の次に良かったです。
事前検討でawakeに勝てないプロ棋士に、先輩棋士がこれを使えば勝てるって、ネットで公開された必勝手順を示して、将棋界のためにプロ棋士が負けてはならないと圧力をかけられて葛藤する方が面白かったと思つ。