劇場公開日 2020年11月27日

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「史実ベースの物語。今週(11/27~)ではお勧めの一本。」アーニャは、きっと来る yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0史実ベースの物語。今週(11/27~)ではお勧めの一本。

2020年11月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 今年52本目。

 特集・公式サイト通り、ナチス政権のドイツが舞台です。この手の映画は、
  1.ヒトラーの賞賛をたたえ、かつ肯定的に取り上げる
 (本国ではタブー扱い。日本でも表現の自由はあるが事実上控えられる)
  2.a ヒトラーの賞賛はたたえず、ユダヤ人迫害にスポットをあてる
  2.b ヒトラーの賞賛はたたえず、ユダヤ人の迫害以外にスポットを当てる

 …というもので、2.aがテーマでありつつ、1の話題も入ってきます。

 場所はスペインと国境を山脈で接する南フランス。ここからわかる通り、当時のドイツ(分裂後の東西ドイツを別にせず、今のドイツとほぼ同一に扱う。以下も同じ)の兵力を考えても、

 1.ヒトラーや側近の執拗なまでのユダヤ人迫害思想は共通テーマではあったが、いわゆる「赤紙招集」で兵士になった一般兵にまで、統一教育は行われていなかったと思われ、また個人の思想の統一も及ばなかった(日本の思想良心の自由に似ますね)
 2.そもそも、ドイツからみて南フランスの一つの村という、かなり離れた場所に派遣されたドイツ兵集団の中には(いわゆる「お偉いさん」もそこにはいなかった模様)、「戦争には勝てばいい」けど、あまり現地(ここでは、南フランスの小さな村の住人たち)とモメるのは避けたかった

 …という考え方があったと推測され、特に2の事情もあったのか、「もうどうでもいいからモメごとも起こしたくもないし、さっさと戦争も終わればよかったけど、あまりにも仲良くしすぎると上から怒られかねないから、形式的には夜間禁止令等は出しても村人と仲良くもしていたし、形式的にはユダヤ人捜索などは行っていたが、形式的なもでしかなかった」ということがうかがわれます(作品参照)。

 このような事情もあり、形式的には村人に対して「かくまっていないか?」と確認をしていたり、形式的に探したりはしていますが、その様態も悪質だったり徹底的になものではなく(ご存知の通り、厳しい場所ではもうそれは熾烈を極めるほどに調べつくされていた)、「1人2人"検挙"してもいいこともないし(どうせ報奨金なんて大したものも出ないんでしょうね)、もう戦争が終わるのを待っていた」(換言すれば、南フランスという「辺鄙な」場所に送られたドイツ軍だからこそ、このあたり「どうでもよかった」「ユダヤ人ではないが、南フランスの住人をいざござを避ける」という事情はあったと推測できる)のでしょう。

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 (※) 日本も第二次世界大戦がはじまると、韓国/北朝鮮(便宜上、今の名称)、台湾、中国…に進出しますが、全員が全員残虐行為に走っていたわけではなく、中には中立的立場に接したりした人も多かったようで(下手に抑圧的態度に出て独立活動や襲撃になるなら、いわば「赤紙招集」された一般兵士の中にはもう、とりあえず現地にはいったけど「別に敵意もないからさっさと戦争終わってほしい」と思っていた人もいたと考えるのは当然の話であり、それはここでも該当するでしょう。
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 本件はそのような事情があったと推測され、最終的には「史実に着眼点を得た」という史実ネタという映画ですが、さしたる犠牲もなく、日本の高校世界史等でもまずもって取り上げられることもない(大学でドイツ史でも選択しない限り出てこない?)史実を掘り出して映画にした、という点は素晴らしいと思えました。

 減点要素は下記の0.2ですが、大きな傷はないと思うので、4.8で5.0まで切り上げています。

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 減点0.3:ドイツ兵が南フランスの村で占拠を始めますが、そこで話されているのは英語です。同様に南フランスの村民が話しているのも英語です(ドイツ語でもフランス語でもない)。可能性としては否定はできませんが、かなり高度な語彙も出るので、おそらく史実通りではなく、ドイツ語・フランス語を英語に「吸収」したのだと思います。

 それはそれで理解できるのですが、ドイツ兵はまだしも南フランスの村民が英語を流ちょうに話していたと考えるのは難しく、おそらくフランス語でのコミュニケーションであったと強く推認されます。その点は確固たる証拠は取れませんでしたが、常識的にみればそうであり、そう取るのであれば、事実通りに「フランス語での会話」にして、字幕を《○○○》と英語ベースと日本語ベースに二重に翻訳するという「原則」にならってほしかったと思われる点です。

 0.1点増:これは映画とはあまり無関係ですが、映画の予告編でも「美しいピレネー山脈の描写…」といった部分は強く感じました。山・山岳の大自然の描写ですね。もっとも本映画はそれがテーマではない(ただし、ピレネー山脈を越えてスペインに逃れるというテーマはある)ものの、そこに美しさはやはりCGだけではなく実写を元にかなり細かく作ったということであり、そこは高く評価しました。
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yukispica