劇場公開日 2021年5月1日

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「ドキュメンタリーではなく、劇映画として」海辺の彼女たち 山の手ロックさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ドキュメンタリーではなく、劇映画として

2021年8月6日
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鑑賞方法:映画館

技能実習先を脱走し、ブローカーの手引きで、冬の東北の漁港で働くこととなった3人のベトナム人女性。
冒頭、暗闇の中をスマホのライトを頼りに脱走する3人の息づかいがリアル。フェリーターミナルに迎えに来たブローカーの車の中で、技能実習先の労働環境の過酷さを訴えるが、それに対するブローカーの言葉も怖い。果たしてこれからどんな運命が彼女たちを待ち受けているのか、という映画的なスリルがある。
しかし、過酷な運命に翻弄されるといった展開ではなく、後半は、3人の女性のうちの1人が主人公となり、葛藤、逡巡する姿を密着して追っていく。主人公の表情を手持ち・長回しで追い続けるカメラが、息苦しいほどに生々しい。
台詞はほとんどがベトナム語。冬の東北の日本海側の漁港とローカル鉄道のロケーションがいい。
非人道的な日本の技能実習制度の闇をベースにした貴重な作品だけに、「一日15時間働かされた」「給料を払ってもらえなかった」ことを、台詞だけでなく、断片的にでも実写で表現してほしかった。撮影に協力してくれる企業があるのか、実際は難しいとしても。
しかし、社会的に描くべきテーマを、ドキュメンタリーではなく、劇映画として描こうとする姿勢に、大いに賛同する。劇映画作家としての資質も感じられた。次回はさらに骨太に描いた作品を期待したい。

山の手ロック