「異化の力」海辺の彼女たち taroさんの映画レビュー(感想・評価)
異化の力
聞き慣れているはずの日本語。見慣れているはずの日本の風景。それらが、よそよそしく寄る辺ないものに感じられる。知らないうちに、不法就労のベトナム人女性の感覚に共感していたのだろう。これぞ、この映画の表現の力なのだと思う。
物語内では外国人を低賃金労働者として搾取する道を作る技能実習生制度は焦点化されない。マクロな視点からの問題提起ではなく、一貫して技能実習生制度によって日本にやって来たベトナム人女性のミクロな視点から捉えられた世界を映し出す。それだけに、異国の地で制度に守られずに働く事の不安感がしんしんと伝わってくる。
日本で働いて家族に仕送りをしたいと願っていただけなのに、(極悪人ではなく)不誠実な人間に出会ってしまっただけで、恐ろしい困難に陥ってしまう。この映画は、困難な状況に陥った人に国や言語を越えて共感する事の大切さを教えてくれる。そこを飛び越えて、制度の不備を批判したり、反対に、不法就労である事を以て自己責任と突き放しても、その言葉に説得力は宿らないのだろう。
コメントする