「生き方や思想でもあり、理想でもあり、「過程」でもある作品かと思います。」ノマドランド 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
生き方や思想でもあり、理想でもあり、「過程」でもある作品かと思います。
アカデミー作品賞ノミネート作で「ミナリ」と並んで、評価が高く受賞するのでは?と目される話題の作品を観に行きました。
鑑賞した「TOHOシネマズ新宿」はなかなかな盛況ぶり。
で、感想はと言うと。良い。
…ただ良い作品なんだけど、個人的にはちょっと淡々とし過ぎているかな。
この淡々さが良いと言う人と「アカン。合わない」と言う人に分かれそうですが、個人的にはちょっと淡々し過ぎw
たんたんと言い過ぎましたが、監督のクロエ・ジャオの継母は女優の宋丹丹(ソン・タンタン)って言うのを書いてから知りましたw
アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を描いたロードムービーで、高齢の主人公、ファーンの生き方が何処か刹那であり、孤独に気高く描かれています。
ネバダ州の企業城下町で暮らす60代の女性ファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で、長年住み慣れた町が廃都と化し、住む環境を失ってしまう。
夫を亡くした事もありキャンピングカーに全てを詰め込んだ彼女は遊牧民として、過酷な季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活を送ることに。毎日を懸命に乗り越えながら、行く先々で出会うノマドたちと心の交流を重ねていく…
最初に難点を言うと娯楽性が少なく、ファーンの目的も分かり難い。
主要キャスト以外は実際にノマド生活をしている人達が出演しているからかドキュメンタリーな感じもします。
そもそも、車上生活を送るのに当たり、「金銭的な事情でそうせざるおえなかった」者と「自ら望んだ」者とでは意識も違うので、そこを理解する所から始めないとこの作品は理解し難い。
「スリー・ビルボード」のオスカー女優フランシス・マクドーマンドが高齢の流浪の車上生活者ファーンを演じていますが、個人的には何処か頑なにも感じるんですよね。
家を持たざる者としての生活の割には、車が故障した際の修理費を姉に頼ると言うのは仕方ないにしてもちょっと安易にも映る。
車上生活をしているのなら車の故障なんて起こりうる想定内の出来事かと思うんですが、その修理費が無茶苦茶莫大でもないのに、それすら貯金してなくて「自分はノマドの生活に誇りを持っている」と言われても、ちょっとどうなの?と映るんですが如何でしょうか?
ただ、いろんな事があって、その生活を選んだ訳で、その理由は本当の所は本人しか分からない。そこの真意を全て理解しようとしても無理だと思うんですよね。
この作品はそこに魅せる映像と生き方の断片なのかと。
都会の香りが殆どしない描写が多く、ハイウェイの横目に様々な大自然が広がっていく。
雄大な風景と無限に広がる空。1日の始まりと終わりを虚いの様に描き出す情景は大きく共感を産むのかは人それぞれとしても静かに心のひだに沿っていく様な感覚を感じます。
まるで水滴が長年に渡り、石を穿つかの様に何かを解していく様が心地良いんですよね。
これって、スローライフにも似た様な感覚なのかと。
ノマドと言う言葉はこの映画の前では知らなかったんですが、現代用語としてWI-FI環境のあるカフェなどで仕事をする人を指す「ノマドワーカー」と言う言葉を思い出しました。
それと同じ意味に近いとの事で、最近ではコロナ禍の影響でテレワークを推奨している企業も増えている事からノマドワーカー(ノマドワーク)はノートパソコンやスマホがあって、WI-FI環境であるならば、どこでも仕事が出来るので、今の社会性事情に「ノマド」はある意味タイムリーw
また、同じくコロナ禍で所得の低下等で最低限の物しか所有しない「ミニマリスト」も注目され、家を持たない生活も見直しされていますが、個人的には家を持たないというのは何かと不便でデメリットが多い(気がします)。
一番は住所が無いので証明などがし難い。郵便物などが届かない。また受け取りがし難い。普段家でやれている事が大幅に制限される。特に風呂とトイレと言った物は不便この上ない。
勿論いろんな事で応用も出来るとは思いますが、それでも自身の家に住むと言うのが当たり前と考えているので、どうも違和感を感じる。
たまにだったら良いけど、友達の家に居候するのもホテル暮らしもどっちかと言うと嫌なので、ノマド生活は自分には合わないなあw
でも、こういう生活にも憧れる気持ちはなんとなく分かります。
作品配給がサーチライト・ピクチャーズと言うのも知ってちょっとビックリ。
サーチライト・ピクチャーズが20世紀スタジオの姉妹会社と言うのを知らなかったので、あのオープニングを見た時に「あれ?社名変更したのか??」と思いましたw
作品としては淡々と書きましたが地味と言えば地味w
ドキュメンタリー的な感じの作品で娯楽性は正直少ないし、何処か思想感が漂う。
でも昨今の娯楽性豊かな作品の中ではいろいろと考えさせられる事がある作品だし、ロードムービー系は嫌いじゃない。
アカデミー作品賞ノミネート作の中でも「ファーザー」や「ミナリ」と並んでの有力候補作の一つですが、こう考えると最近のアカデミー作品賞候補作の毛色は以前とは少し変わってきているかなと。
まあ、それでも何処か政治的匂いは感じますけどねw
ちなみにアカデミー作品賞受賞予想は…アンソニー・ホプキンス主演の「ファーザー」と予想していますw
「ヒッピー」や「バックパッカー」と同じ様でも似て非なる言葉で、日本にかつて存在したとされる放浪民の「サンカ」とも違う。
ファーンのこのノマドの生活がこれ以降も続くのかも分からない。もしかしたら一生続けるかもしれないし、明日には止めるかもしれない。
でもそれはそれで良いのではなないかと思う。
居場所がある事で心の拠り所とする事もあるだろうけど、居場所が無い事を心の拠り所する選択肢もある。
何かを持つ幸せと何も持たない自由の価値は人それぞれ。
この作品で描かれているのは生き方や思想でもあり、理想でもあり、「過程」でもあるのではないかと思います。
好みが分かれる作品ではありますが、観てみるといろんな事を「感じさせる」「考えさせてくれる」作品です。
ご興味がありましたら、是非是非です。
talismanさん
コメント、有難うございます♪
お誉め頂きまして、光栄です。
淡々とした作品と書いていて、まさかの監督のお義母さんの名前がタンタンってw
狙ってたのではなかったのですが、見つけたので書いてしまいましたw
また、お暇がありましたら、覗きに来て下さいね♪