劇場公開日 2021年3月26日

「居場所の喪失」ノマドランド ミカさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0居場所の喪失

2021年3月27日
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鑑賞方法:映画館

知的

私も日常の繰り返しに嫌気がさして、衝動的にふらっと放浪生活をおくりたくなる時がありますが、資金の事を考えるといつも躊躇してしまいます。しかし、ひとつ言えるのは、私の憧れる放浪生活と本作の放浪生活は全くの別物だということです。

本作に出てくるノマドは、生きる為に最低限な生活、ジャンクで粗末な食事をしてガラクタに囲まれた生活をしています。銃社会で治安が悪いアメリカでは、女性高齢者であればあるほど、この様な生き方はリスキーな生き方になります。本人達は、このノマドを自発的に選んだと言っていましたが、恐らく社会によって自発的に選ばさられただけなのでしょう。それは、企業閉鎖による貧困かもしれませんし、精神の病かもしれませんし、人間の尊厳の喪失かもしれません。

ファーンは『ホームレスではなくハウスレスよ』と言っていましたが、それは彼女自身に残った最後の尊厳なのです。この様な生活を選ばさられたと思うよりは自ら進んで選んだと思う方が、人間の尊厳が傷つかないのです。ノマドランドは、何も持たない人達の最後の拠り所であり、唯一尊厳を傷つけられない場所です。

格差が拡がり続けるアメリカ社会によって、尊厳を傷つけられた人達、居場所を奪われた人達という意味では、根本的には狂信的にトランプを支持していた人達も本作のノマドも同じだと思います。

これからの時代は、テクノロジーが更に加速して、企業はDX化しないと生き残れない時代です。本作はリーマンショック数年後のアメリカを舞台としていたので、低賃金であれ、Amazon倉庫では人が働いていました。今や受注はシステムが行い、発送はロボットが行い、輸送はドローンや自動運転車が行うといった未来が見えてきています。

ホワイトカラーであれブルーカラーであれ、仕事や居場所がテクノロジーに取って変わられ、巨大企業と株主だけがひたすら膨張していく社会。そんな近い将来に、私も含めて人類の居場所は果たして残されているのだろうかということを示唆しているようでした。

ミカ
ぷにゃぷにゃさんのコメント
2021年3月30日

いやー、考えさせられるレビューでございます。
お見事!

ぷにゃぷにゃ
グレシャムの法則さんのコメント
2021年3月27日

ホワイトカラーも今や、在宅勤務の流れが加速して、勤務評定の拠り所もオンラインの世界に狭まってます。彼は電話応対が爽やかで顧客の印象がいい、とか、新人をよくサポートしてくれる、みたいな人柄や気配りの部分が評価基準に反映されづらいし、そもそも評価者の属人的な評価基準も不透明。だったらAIに評価してもらおう。となると、中間管理職は居場所が減るだけでなく、存在自体の必要性が失われるかもしれないですね。
最近はワイシャツも着てないし、ホワイトカラーも絶滅危惧種(死語)かも。

グレシャムの法則