「【国際社会として考え続けなくてはならないこと】」アイダよ、何処へ? ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【国際社会として考え続けなくてはならないこと】
このスレブレニツァの虐殺の首謀者であるムラデイッチは、虐殺が明らかになり、国際指名手配されると、身を潜め、逮捕されたのは2011年。
裁判後、終身刑が言い渡されたのが2017年。
刑が確定したのが、今年、2021年だ。
ただ、僕が、この作品を観た第一印象は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中にスレブレニツァの虐殺を起こしたセルビア人を非難したり、憎しみを募らせようとしたというより、なぜ、こうした悲劇が起きたのか、人々に考えてもらいたいというメッセージの方が強いんじゃないかということだった。
双方に過激思想のグループがいて、歯止めは効かなくなる。
こうした連中は、一部の会話からも分かるように、大概、民族至上主義的な考えをバックグランドにしている。
ソ連崩壊前、ユーゴスラビアは、特にチトー政権下では、複数の共和国からなる多民族の理想的な社会主義国だと考えられていた。
しかし、ソ連が崩壊すると堰を切ったように民族至上主義が台頭し、複数の共和国に分裂するにあたり、領土を奪い合ったり、殺し合いを始めたのだ。
第一次世界大戦前までは、いくつかの少数の大国がヨーロッパを支配し、特に東欧の民族は過度に従属的な状況に置かれていた。
しかし、この大戦後、ウッドロー・ウィルソンが民族自決を提唱し、東欧に多くの民族国家が誕生した。
その後、これを逆手にとって、侵攻や支配強化を行なったのがアーリア民族至上主義を掲げたナチスであり、第二次世界大戦後は、共産主義とロシア民族思想が強く結びついたソ連だった。
イデオロギーと民族思想が補完し合う関係になったのだ。
だが、こうしたイデオロギーが後退すると、歯止めが効かなくなるのが民族至上主義だ。
世界は、ソ連型社会主義の崩壊で歓喜したが、大きな問題の種は残ったままだったのだ。
そして、機能しない国連。
常任理事国をソ連に代わってロシアが引き継いでしまった以上、容易に国連軍のミッションにゴーサインは出るはずもない。
東欧が混沌としてくれた方が、ロシアにとって都合が良いことはあるはずだ。
(以下ネタバレ)
この作品はおそらく二つの課題を世界に突きつけているように感じる。
民族至上主義はリスクだということと、国際的な組織が機能しにくい状況に陥っているということだ。
そして、ソリューションは一つしかないのだと。
その答えは、最後の遊戯の発表会の場面。
多様な民族の子供たちが小さな両手で顔を覆ったり、開いたりしている。
世界は多様性を基本とすべきだと伝えたいのだ。