劇場公開日 2022年6月4日

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「後味は相当苦いが、味わってみる価値はある」ニューオーダー SGさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0後味は相当苦いが、味わってみる価値はある

2022年6月12日
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ある豪邸で開かれている結婚披露パーティー。
裕福で若い新郎新婦を祝いに集った政財界の名士や華やかな面々。一方そこから程近い地区では貧富の格差に対する抗議デモが爆発的な広がりを生み暴徒化が拡大していた。
不穏な空気を感じながらも進行する祝宴は"招かれざる客"によって、殺戮と略奪の渦の中へと一気に呑み込まれていく。
ついさっきまであった日常が一瞬で崩壊し、地獄のような混乱へ突き落とされるが、しかし恐怖はそこで終わらない。
暴動は軍部によって武力鎮圧され街には戒厳令が敷かれるのだが…。

New Order= 新たな秩序。
善意も温情も正義も通用しない。
僅かな希望は容赦なく踏みにじられる。
真実は都合よく歪められ、力無き者が無条件で支配されすべてを奪われていく。そしてまた暴力の連鎖が善と悪の境界線をかき消していく。
絶望のディストピアは空想世界の話でなく、戦時下のウクライナをはじめ、表からは見えにくい世界中のどこかしこに存在することを痛烈に思い知る。

名匠ミヒャエル・ハネケの「ファニーゲーム」という問題作があったが、あれに近い不快感や嫌悪感を覚える人もいると思うので軽々しくオススメはできない。人によってはいわゆる"胸糞映画"の部類に紐付けられるかも。
しかし現実に戦場という無法地帯で繰り広げられる殺戮や性犯罪、拷問、銃社会における殺人や略奪行為の不条理と恐怖を、濃密なリアリティーでえぐり出した裏側に見え隠れするのは、腐敗まみれの社会構造や歪んだ秩序への危機感と、未来への警告だと気づく。
メキシコが抱える社会問題と治安はもちろん日本とは大きく異なるが、ここ数年のパンデミックで浮き彫りになったようにグローバルにシームレスにつながり合う世界に生きる私たち人類が行き着く先にある"新たな秩序"は、一歩間違えればこの作品に描かれる悪夢のようなものになりかねないと。

救いのない無慈悲な現実に晒され続ける人々のニュースを日々目にする今、これを下世話なフィクションだと受け流す気になれないのも本音。
時には逃げずに"最悪な世界"を体感して、ネガティヴに想像を膨らませてみるのも悪い事じゃない。
後味は相当苦いが、味わってみる価値は確かにある。

SG