劇場公開日 2022年6月4日

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「これからも人類の歴史は戦争の歴史だ」ニューオーダー 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0これからも人類の歴史は戦争の歴史だ

2022年6月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 メキシコ映画らしいと言っていいのか、表現のいちいちが過激である。というか、暴力に躊躇いがない。メキシコは銃の所持が許されている国だから、人を殺すのに躊躇いがないとも言える。
 格差が限界まで広がったらこうなるだろうというSFスリラーだが、舞台が日本だったら、多分こんなふうにはならないと思う。デモ隊が暴徒と化して、店舗や家屋を襲ったり略奪したりすることはない。
 本作品の設定には仕掛けがあって、結婚パーティの出席者は全員が白人、使用人は全員が有色人種となっている。つまり格差を肌の色で表現して分かりやすくした訳だ。パーティには豪華な料理、高価なワイン、麻薬まである。そういうものを欲しがる人の国という設定だ。
 しかし日本人は必ずしもそうではない。豪華な料理にも高価なワインにも興味がないという人がかなりいると思う。若者は自動車にも興味がない。つまり金持ちを羨ましがる傾向が少ないのだ。いまの日本人が金を求めるのは、贅沢がしたいというよりも、生活の安定を願うからだろう。暴動に向かう精神性は殆どない。

 本作品の主眼は軍隊の動きである。暴動の発生時に軍は静観を決め込む。しかし一部の者たちは暴動に乗じて営利目的の誘拐をはたらく。その後、暴動を鎮圧することによって、軍は国を実質的に支配する。
 一部の者たちが行なった悪事をどうするか。軍は最も軍隊らしい判断をする。国民よりも軍が大事だ。軍の名誉が傷ついたり、非難されたりすることは、断じて避けなければならない。その判断に人道的な見地はまったくない。
 そして時代は20世紀初頭と同じような状況に戻ってしまう。メキシコだけがそうなるのではない。全世界的な傾向だ。格差の行き着く先は暴力による支配である。つまり軍部の台頭だ。世界中がそうなったときに、人類はどうなるのか。軍事技術の絶え間ない発展によって、現在の軍事力は先の大戦時の比ではない。
 本作品は、人類の未来を暗示している。通信技術がどんなに発達して世界中が結ばれても、人間の愚かさには変わりがない。人類の歴史は戦争の歴史だ。これまでもそうだったし、これからもそうに違いない。

耶馬英彦