劇場公開日 2020年11月6日

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「伊藤健太郎あってこそ」十二単衣を着た悪魔 sawaさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5伊藤健太郎あってこそ

2020年11月17日
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伊藤健太郎あってこその映画と感じた。
三吉彩花も伊藤沙莉も健闘しており魅力的だが、伊藤健太郎の表現力がこの映画を何倍も輝かせている。

どこにも「居場所がない」ままタイムスリップしてしまったフリーター、雷。
迷い込んだ源氏物語の世界で、なんだかまつりあげられて過ごすうち、与えられた場所で精一杯に生きる人々の強さに触れ、自分の居場所を掴み取ることの意味を知っていく物語…
と理解。原作読んでないけど。

現代の茫洋とした情けない若者は、そのぽわんとしたおおらかさや頼りない柔らかさ、弱さを持ち続けながら、少しずつ少しずつ強くなっていく。
急に目覚ましい成長を遂げたりはしないのだ、最後まで。
その変化の加減が絶妙に演じられている。
伊藤健太郎の才能だと思う。

愛を得、喪い、「ずっとここにいる!」という絶叫も叶わず、居場所を与えられてはまた奪われる。
繰り返されるタイムスリップという一見トリッキーな設定は、実は誰もが受け入れざるを得ない、人の力を超えた運命の変化、時の試練を示しているのだろう。

狼狽しそれに抗おうとする雷、しかし、誇り高く逞しい弘徽殿の女御らと共に生きることを通じて知った大切な思いが彼を救う。
弘徽殿の女御もまた、雷のひたむきな心に触れることで変化し、より深い強さを得ていくのだが。

終盤、弘徽殿の女御と庭で語り合う雷の、情感あふれる表情がなんとも言えずよい。
さらにエンディングでの泣き笑いの顔には、彼の物語のすべてをつないでここにある、今の思いが込められていると感じた。

伊藤健太郎という俳優が失われてはならないと強く思う。

sawa