「【”触感と嗅覚と聴覚”で生きる女と、”視覚”で人の本質を見抜き生きる男との凄みを帯びた恋物語。従来の障碍者の方を描いた作品とは一線を画する作品でもある。】」二人ノ世界 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”触感と嗅覚と聴覚”で生きる女と、”視覚”で人の本質を見抜き生きる男との凄みを帯びた恋物語。従来の障碍者の方を描いた作品とは一線を画する作品でもある。】
ー 驚いた。凄かった。1時間44分、身じろぎせずに魅入ってしまった作品。ー
・バイク事故で負った脊髄損傷の為、寝たきりになった男シュウサク(永瀬正敏)はセクハラ発言の為何人もヘルパーを辞めさせた、人生を諦めたかのような表情を浮かべている。
彼を親身に心配するのは実の父だけである・・。
・そんなある日、父がラジオに困りごとを話しているのを聞いた全盲のハナエが、シュウサクの家に来て、ヘルパーとして働かせてくれと頼む・・。
◆今作の素晴らしき所
・障害を負ったハナエが、その事実に対し、敢然と立ち向かっていく姿。
・その姿を見た”外界に出る事を躊躇っていた”シュウサクが、ハナエに髪を切って貰い、亡き父の弔いのため、外に出る決意を固めていく男の表情の変化を演じる永瀬正敏の姿。
・ハナエを演じた土居志央梨さんの、子供と引き離された哀しみを抱えつつ、障害を負っている事に引け目を感じずに、世間に発する言葉。及び、この女優さんの凄みある演技。
ー 正月の縁日でぶつかって来た若い男への啖呵。
こんなに凄い女優さんだったのか!驚きである。ー
・且つては絵で名を挙げていたシュウサウの絵に愛おし気に顔を寄せ、触りながら絵を”見る”ハナエの姿。
そして、シュウサクを支えて来た旧友の写真家の三代目が、その絵の前でハナエを写真に収め、その写真を大切にするシュウサクの姿。
・愚かしきシュウサクの親戚の中年女性達に対してのシュウサクの”財産目当てだろ!”という啖呵。
<それでも、二人は一人では生きられない・・。
その哀しみの中、シュウサクは独りベッドに横たわり、天井を見る。
雨の中、踏切の中で立ち尽くしていたハナエが、シュウサクの思いを感じ、びしょ濡れの姿でシュウサクの部屋の襖の向こうに立つ。
シュウサクの呼びかけに応じた、ハナエは全てを脱ぎ捨て、シュウサクの横に静に横たわり、シュウサクの肩に白き美しい手を回し、柔らかな表情で目を瞑る・・。
その姿を天井から移したショットの幻想的な美しさよ・・。>
<2021年1月23日 永瀬正敏特集実施中の、刈谷日劇にて観賞>
■蛇足
・京都芸術大の若きスタッフ制作という事もあり、我が愛すべき”枡形商店街”が2度も映され、僥倖であったよ・・。