「必要なシーンが大団円に向けて緻密に積み上げられていく」夏への扉 キミのいる未来へ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
必要なシーンが大団円に向けて緻密に積み上げられていく
ストーリーやシーンを書くとネタバレになってしまうのでレビューが少し難しいが、とにかく本作品は面白い。飽きずにワクワクしながら観られる。主人公の状況が二転三転するという意味では、同じ三木孝浩監督の映画「君の瞳が問いかけている」と同じで、波乱万丈と言っていい物語がテンポよく展開する。
「君の瞳が問いかけている」では、ヒロインを演じた吉高由里子の芝居に感心したが、そこまでには及ばないとしても、本作品での清原果耶の演技は相当なもので、どちらかと言えば表情に乏しい山崎賢人の芝居を補って余りあるものがあった。
山崎賢人の演技が悪い訳ではないが、日常の範囲での常識的でフラットな演技をすることが多くて、相手役や脇役の芝居が彼の存在を引き立たせるような感じなのだ。松岡茉優が相手役だった映画「劇場」もそうだった。
本作品では清原果耶の他に、アンドロイド役の藤木直人がその役割を果たしていて、科学者とは思えない主人公宗一郎の間抜けぶりを傍らで助ける。この役は演じるのが愉快そうな役で、藤木直人は如何にも楽しそうに演じていたし、その演技が見事だった。夏菜が如何にも性根の悪そうな典型的な社長秘書を演じているのがハマっていたし、30年後の彼女はケッサクだ。田口トモロヲは流石の演技力で、本作品のキーパーソン遠井教授を怪演。
物語は大方のSF小説を原作とする映画がそうであるように予定調和的だが、必要なシーンが大団円に向けて緻密に積み上げられていく演出が秀逸で、大変に見応えがあった。
面白いので人に勧めたいが、面白さを説明しようとするとネタバレになってしまうので、とにかく面白いから観てみるといいとしか言えない作品のひとつである。