「一番長尺のバージョンなのに一番短い?ドラマがグッと濃厚になった完全無欠の決定版」T-34 レジェンド・オブ・ウォー 最強ディレクターズ・カット版 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
一番長尺のバージョンなのに一番短い?ドラマがグッと濃厚になった完全無欠の決定版
モスクワに程近い前線基地司令部に食糧補給に向かったロシア軍士官イヴシュキンは野戦病院と司令部を撤退させる陽動作戦の為たった一台残されたT-34の指揮を任される。夜明けの小さな村で待ち受けるイヴシュキンら4名の戦車乗りの前に現れたのはナチスのドイツの戦車中隊だった。3年もの間強制収容所の捕虜となり7回の脱獄を試みたイヴシュキンに与えられた任務は戦車隊の強化を急務とするナチスの模擬演習でT-34の指揮を執ること。捕虜仲間からならず者の戦車乗りを3名選んだイヴシュキンが実弾装備のないT-34で打って出る決死の作戦に身体中の血が滾る!
というのは前回、前々回のレビューからのコピペ。そもそものオリジナル版の尺は113分。ダイナミック完全版が139分、そして今回のDC版が193分ということでもう尺が全然違うんですがぶっちゃけ言います、なぜかDC版が一番長さを感じさせません。まず大きな違いは宿敵イェーガー大尉と対決の舞台である陽動作戦。オリジナル版では物語のAメロに過ぎないシーンですが、ここまでだけで1時間あってここでエンドクレジットを挿入したら初見の人はそのまま席を立って出て行ってしまうくらいドラマチック。オリジナル版ではほぼ全部カットされているこの作戦に至るまでの人間ドラマが濃厚で、ここでじっくり描かれた人間関係が次の強制収容所での展開にしっかり襷を渡しています。その強制収容所でこってり描かれているのはT-34の操縦手ステパン。彼とイヴシュキンの確執があっての“白鳥の湖”、これは鳥肌モノです。そして3年後大佐に出世したイエーガーがイヴシュキンを見つけ、T-34を任せるまでの件もドラマに描かれ、また収容所内で冷遇されているロシア語の通訳アーニャをさりげなく救う優しさも見せてイエーガーのキャラクターが物凄く立体的になったところで第1部終了。そして第2部はもうネタバレになるのでこれくらいにしておきますが、ここでイヴシュキンが見せるアカデミックな一面が戦争の虚しさをガッツリ浮き彫りにするということにだけ言及しておくことにしましょう。そんなこんながあってのクライマックスはもう泣けて泣けてしょうがなかったです。
ということで、3つのバージョンを全てスクリーンで鑑賞出来たことにはもう映画の神様に感謝するしかないわけですが、本当に驚いたのはこのDC版から1時間以上のシーンをカットしたオリジナル版ですら昨年度のベストワンだったこと。尺を2/3にしても本作の本質部分は一切失われていない、それだけ入念に吟味して本当に必要なシーンだけを残すという緻密な作業の結晶がオリジナル版だったということですから、本作がいかに恐るべき傑作であるかを思い知らされた次第です。これから鑑賞される方は正直どのバージョンを選んでも損はないということだけ言っておきましょう。しかし私が最初に観たオリジナルIMAX版は実はソフト化されていないそうで、ドイツ語の後にロシア語音声が挿入されるボイスオーバーはIMAX版だけの仕様とのこと・・・去年鑑賞しておいて正解でした。