スパイの妻 劇場版のレビュー・感想・評価
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謎が残る映画でした
時代の雰囲気、セリフ回し(特に蒼井優役)、豪邸や貿易商の部屋、街中、なかなか好きな感じのリアルさ♫
蒼井優さんは、素晴らしいですね。夫役の高橋一生さんの趣味の8ミリ映画が、本作にも関係ありでミステリアス感が高まります。
ラスト終盤、え?こんな木箱で2週間???と心配になりましたが、残念!密告ありで下船し連れ戻されてしまう、、、
密告したのは女中さんかと思いましたが、まさかの?!夫??
妻を庇ってなのか、それとも??
死亡診断書も偽造なので、生きてるかもね〜。
謎めいた役に高橋一生さんは、最適。
夫が村上見つけたあの氷、東出さんが持ってきてから、かなり経ってますよね、溶けてるやろ〜っ??
しかも満州から連れて来た女が、不気味に登場!って思ったら、悪夢でした。(^^;)
愛し合ってるからこそ、ややチクリと嫉妬ありの場面も美しいのですわね(*^_^*)
あれこれ想像できる、よい作品だったと思います。
正しいことを貫くのは時に難しい
蒼井優さんをはじめ演者の皆さんの演技と熱量にどんどん引き込まれていきました。
高橋一生さんの役どころもかっこよかったですが、夫とともに覚悟を決める蒼井優さん演じる聡子がとてもかっこよかった。
「狂っていないことが狂ってる、この国では」という聡子の言葉がすべてを物語っているように、正しいことを貫くことって実は時に物凄く難しいことですよね。
※最近の邦画はハズレが少ない気がします。これは演技や演出など邦画のレベルがあがったからなのか、たまたま僕がそういう映画をチョイスしているだけなのかどちらでしょうか?
「スパイの妻」、いや「売国奴の妻」、いや「大嘘つきの妻」と呼ぶのが一番良いかも。。蒼井優がまるで昭和の映画女優の様。有る時は原節子、有る時は杉葉子、有る時は…でもそれが一番のトリックだったりして…
①蒼井優がいかにも終戦直後の映画の主演女優のような演技に驚いた。髪型といい、当時の奥様方のような話し言葉といい話のテンポといい。映画自体も戦前が背景のせいか、まるで昭和の映画に似せたような作りだ。②しかし、観ているうちに既視感というか嘘っぽいというかいかにも作り物という感じがしてくる。まるで芝居を観ているような。③いかにも戦前の日本らしい兵隊や憲兵の姿。貿易商を営み阪神間に豪邸を持ち運転手とお手伝いさんのいる如何にも戦前の小説や映画に出てくる絵に描いたような中流(当時の)の社長夫妻、憲兵の偉いさんになった東出昌大は妻の幼馴染みで、純朴だった青年が冷酷な軍人になっていく良くある設定。外国人相手に貿易商を営む夫は当然進歩的な人間という性格付けであり、妻は途中まではまさに有閑マダムである。福原夫妻が義憤に燃える原因が満州軍の細菌部隊の活動のエピソードというのも、考えてみると余りにありきたりに思える。大事な生き証人があんなに簡単に殺されてしまうのも何か変。⑤映画の中で福原と甥とが余興に作った素人映画が出てくるが(重要な映画的小道具となる)、それが象徴しているのが実はこの映画自体が“敢えて作り物っぽく作った映画”という入れ子構造の映画ではないか、ということかも。⑥作り物っぽい単なる反戦映画+恋愛映画の演出に銀熊賞を与えたのであればヴェネチア映画祭も随分堕ちたものだと言わざるを得ないが、そういうトリッキーな映画のトリッキーな演出を評価したのであれば納得できるというものだ。
蒼井優の喋り方とか
当時の人が実際そうだったのか知らないけれど、モノクロ時代の日本映画に出てくる女性はバカに丁寧で少し早口で喋る。ユリアンレトリィバーが前にモノマネしてたけど、今作の蒼井優の台詞回しがまさにそれだ。本人の演技プランなのか監督の指示なのかは分からないがリアリティの追求としては面白いアプローチだと思った。スカーレット・オハラみたいな髪型も素敵だった。
と、物語のオンタイムに封切りされた名作映画からの引用とか影響とかいろいろ読み取れるのかと思い、劇中出てくる『河内山宗俊』の意味を考えてみたり勝手に宿題をもらった気分だ。
いかにも黒沢清といった、なにやら不穏な感じが漂う背景も見応えがあった。ライティングの演出も明快でやけに明るいところと暗いところ。どうしても目がいくように明かりの当たるチェス盤。難解な映画がもてはやされる事もあるが分かりやすい事も良い事だと思う。
エピローグは蛇足の様な気もするが、「狂っていない私が狂っている」みたいな台詞はなかなかパワーのある言葉だから必要だったのか?でも、物語を通してそれほど意味のある台詞だったかな?
【追記】
この間、宇多丸さんのラジオで監督が
「キャストの喋り方は当時の映画の喋り方で」と指定し、キャストは参考資料等の要求もせずリクエストに応えたそうです。
タイトルは《愛の蜃気楼》の方がしっくりくる
高橋・蒼井はいいコンビだね。
慣れてる感じが良い。
さて、映画ですが、商社の社長〔高橋一生〕が満州〔中国南部〕に渡ってからが本題の話。
そこで、ある看護婦と逢い、日本軍が人体実験をやっている証拠をアメリカ迄運ぶ話。
その妻〔蒼井優〕が、事件を巻き起こす。
何故か彼女はその証拠を日本軍に渡してしまう。
其処から夫婦でアメリカ亡命しようとするが
旦那の裏切りで彼女は精神科で過ごすことになる。
戦争も終結し、翌年妻は旦那を探す為アメリカへ渡る。
あらすじこんなもん。
感想ですが、妻が旦那を惚れていたのはわかるが、何故身内の恥として敢えて軍部に情報を売ったのか?
〔夫の裏切りへの落とし前?〕
其処が疑問。
スパイの妻とタイトル有るが、それとは裏腹に
大義とかどうでも良く、旦那と幸せな日常を過ごしたいだけの妻。
時代背景も垣間見るとそれは理解するけど
果たして妻は何をしたかったのか?
旦那は本当にスパイだったのか?
そして妻は売られた〔密航しようとした妻を裏切った〕
時何を思ったか。
男の大義と女の愛情果たしていくつく先は‥
そして終戦後の感情。
アメリカ渡航のシーンとかあって、終わった方が蒼井優もっと活かせたのに。
カット割とかは面白かったけど、ストーリーは軽い。
東出出てたんだ。蔵入りしなくてよかったね
金獅子っていってもオリエンタルの魅力だけで
普通な感じ。
煮詰めればもっと良くなるのに何か残念な映画だな
脚本が『シッパイの妻』
なんと言っても、素晴らしいのは蒼井優の演技です。前半のセレブな奥様から、後半の旦那一途の行動的な共犯役への切り返しが見事です。高橋一生の旗色不鮮明な役もいい感じです。一方で肝心の脚本は、スパイをテーマにしている割には淡々と起伏のないサスペンスレスな内容です。旦那のスパイ活動の動機と行動はピンとこないし、憲兵隊の動きもチグハグです。最後の憲兵隊本部のシーンで幕切れにしとけばよかったのに、その後のシーンは蛇足だし、ラストのテロップもなんか尻切れトンボでした。
あの時、日本の全おじさんは心の中で叫びました。
な にぃぃ?
や ま ざ と だとぉ?
何でや?
何で、そうなる?
なんでやーー!
ゼぇゼぇゼぇゼぇ…
※ちなみに叫び声は爆音です。更に言うと「やまさと」です。
ですが蒼井優ちゃん、ますます良い仕事してます。良かった、良かったw
もうね。そんだけ。
731をバラしたらアメリカが参戦する理屈が分からないし、相変わらず非戦闘員が死ぬのは戦争が悪い事になってるし(悪いのはアメリカです)、客船が潜水艦に沈められてるし、さすがNHKと呆れてしまう内容です。正義感でアメリカを戦争に駆り立てるなんて言う考え方こそ、狂ってます。
妻を巻き込まない為のスティングは見事でした。
蒼井優に大女優の風格
《宮本から君へ》で蒼井優は色んな表情して凄いなと思ったんだけど、この作品でもすごいの。作品のスケールもあって、なんか後世の人が「令和の女優といえば蒼井優」と言いそうな風格があった。
画がいいの。オープニングの松がすごくて、そこに青色のドアと青色の制服。青はその後も意識して使われてた。逆光いれてきたり、その場にいる人をわざと画面の外に出したり面白い。他にも「え、この撮り方すんの」っていうカットがあって飽きないの。物語は前半は大きく動かないから、特にカットの面白さが目立つのね。
そのうち話が動き出して、夫婦が騙し合う展開になってきて、話が進んでくんだけど「これ、このままいくのかな、ドンデン返しくるのかな」って面白く観ちゃう。
そして色々あって最後の方で、蒼井優が野崎先生に「狂っていません」って言うところが、テーマなんだけど、まあ、そうですかって感じだったな。そして最後の海岸のシーンは分からなかった。まあいいや。
重いテーマを描きながら、エンタメ性も入れてきて、作品として成立させる黒沢清は凄いなと思ったよ。東出昌大と恒松祐里は、黒沢清に気に入られたみたいだから、頑張って欲しいな。
正しく世界を謀り、図れるものはあるのか
もう劇中の聡子よろしく「お見事!」…としか言えなかった。凄まじい本気の本気の映画だった。
あんなにどのシーンを切り取っても、画面の中の建築物・内装・衣装・髪型・照明等全て美しく洗練されている本当に素晴らしい芸術作品なのに、全セクションの本気さが終始スクリーンからほとばしっている。
静かで整った画面から秘められた熱いうねりを感じる傑作です。
★映像面について
☆光と影の美しさ
個人的に建築物や衣装のレトロさや色調が好きだったので、ポスタービジュアルの時点で優勝!と思っていたけれど、とにかくまずは照明が圧巻だった。
それだけでどういうシーンなのかがわかるようになっている。
例えば、聡子に満州の一件がバレる長回し(当たり前ですが芝居が圧巻です)のシーン。
倉庫内は基本的に暗いので全体的に暗めになりつつ、部屋の奥の方は隙間から光が差し込むので、そこに立つともれなく線状に光と影が体に映される。
特に優作はそこで満州での真実を話すので、その凄惨さや不穏さがより引き立っていたように思った。
家のシーンでは、聡子の背景によくステンドグラスが映り込むのが美しく、特にまだ何も知らない序盤では、ただ華やかさをプラスしたり、夫を想う妻の気持ちが滲み出たりしているイメージ。
私が一番印象に残ったのは、路面電車の中で2人が並んで座っていたシーン。
戦局によってアメリカに通常ルートでは行けなくなり最早”亡命”という手段しかない、と聞いた瞬間、聡子の顔のクロースアップに右の窓から光が閃光のようにぶわっと差し込み、一瞬画面を光が支配していた。
危ないと解っていながら、それはこの人の正義を貫くために共に闘える手段であるということを悟ったのだろう。おそらく不安や恐怖よりも、共に進むべき道筋が見つかったという覚悟とある種の喜びみたいなものすら、聡子から感じられた。
正解かどうかは分からないけれど、映画表現って凄いな、と呆然とスクリーンを眺めざるを得なかった一瞬。
☆スクリーン越しの視線の往来
もう一つ気になったのは、劇中映画の存在。
優作が聡子や文雄に演じてもらい撮っている、趣味の映画。
(一瞬パテ社のフィルムケースごとフィルム映ったり、映写機持ってたりするけど、あの時代に”趣味”で一式持ってるっておいくら万円?)
やがてその”映画を撮る”という行為が物語=虚構の記録ではなく、隠された真実の記録として機能していくアイテムとなる。
かつ、カメラを通して撮影する/されるという優作と聡子の関係性や視線の一方通行さを最初に提示しておいて、撮り終えた映画を上映することで、劇中のスクリーンから劇中の人々へ、更には本物のスクリーン越しに私達にも、芝居をしている聡子という体で視線が反対方向へと返されていく。
しかも、この後聡子は真実が隠されたフィルムの存在を知って、自分で映写機を回している。
つまり、撮られるだけの存在だった彼女が能動的に映像を観ようと行動を取るという変化が見て取れるし、そのフィルムの内容によって、 自ら真実を知ろうとして本当にそれを知ることになるし、
或いは映画の中の自らと視線がぶつかり、ラストにはその予想外の”視線の交錯”(=優作がフィルムをすり替えた結果)によって、死を免れることになる。
この多層的なスクリーンの構造・視線の営みに私はうっとりするタイプ(大学で専門だった)なので堪らなかった。
☆世界はフレームの中だけではない
出典は忘れたけど、一生さんのインタビューで「黒沢監督はフレームにとらわれずに撮ってくださる」みたいなことを仰っていた気がする。
私もそれを意識して観てみたら、例えば話している人間がメインにならずフレームアウトしていたり、頭や体の一部が切れていたり、本当にフレームに収めずに空間を使って芝居の動線をつけて、撮っているのだろうなと素人ながら感じた。
勿論、フレームに入る世界を徹底的に1940年の神戸として作り込んでいるリアリティとか美しさだけで惚れ惚れするようなシーンがいっぱいあるのだけれど、本来カメラによって視点を定めるはずの映像作品で、それを狭めないでこちらに委ねさせるような映像で、フレームの外にも世界の広がりを感じさせる点は、ある意味舞台的かもと思った。
★人物について
☆なぜ『スパイの”妻”』なのか
本作のタイトルが『スパイの妻』なのがすごく良いなって。
”スパイ”じゃなくて”スパイの妻”の映画であるということ。
キャスティングの理由が最後まで観てめちゃくちゃ腑に落ちた。
主演の二人と言えば、直前に『ロマンスドール』を経ているのでそのイメージも強く残っていたけれど、『ロマンスドール』だと一生さんが先にクレジットされていて、本作では蒼井優さんが先にクレジットされている。
それも両作観ればわかるけれど、今回は本当に蒼井さんが演じる聡子が全部話を動かしていくし、
特に終盤、すり替えられたフィルムですべてを察し、スクリーンの前で笑う姿が本当に凄まじい。
それから、台詞回しが本当に昔の日本映画の女優さんって感じで、第一声から衝撃的だった。
(ヒロイン像については、『キネマ旬報』の轟さんの寄稿がすごく面白かったのでぜひ。「クルッと回る」女が物語を本当に動かしていた。)
☆イセクラ的高橋一生の底力
そして、今回一生さんが夫役な理由もすごくわかる。
まず確信したのが、満州から帰ってきたシーンで抱き着いてきた聡子を受け止めるシーン。
優しく抱きしめつつ、視線の先には草壁弘子が居てそもそも聡子を見てないし、その目が全く笑ってなくて、しかも顎で「早く行け」みたいに指図しているわけで。
もうそのまなざしだけですごい高橋一生、と思った。
本当の意味では誰も見ていない、どこか感情の宿らないうつろなまなざし。
既に”この人は全部自分でやってのけるって腹括ってたんだな”っていうのが後でわかると、なおここが活きてくる。
また、彼は全部のシーンの言葉遣いが淀みなくて、スマートな所作でスーツも似合っていて、仕事もバリバリしている。本当に様になる人なのに、どこか常に不穏さと不確かさを漂わせる。
この人は目の前に居るようで、本当は居ないのではないか?
夫に対して懐疑心を募らせていく聡子と同じような感情を、スクリーン越しの我々にももたらすところが流石。
そして、終盤。後述するがフィルムをすり替え、実は全部引き受けていた優作が、
船に揺られながら霧の中に消えていくあの数秒間の、「してやられた」という気持ちと、「でも彼はそれをやると思ってた」と丸ごと腑に落ちる不思議な感覚。
聡子の狂った笑いと、レコードから聴こえる『かりそめの恋』の高い声と優雅なメロディと、溶け合って全部消えていく様、間違いなく白眉のシーンだと思った。
絶対に忘れないと思う。
これまでの一生さんの役柄でも何度も感じてきたけれど、この人ほど”不在にこそ際立つ存在”を演じたら右に出る人は居ないのではないか。
考えてみれば、そもそも本作のメインビジュアルが公開された時点で、不穏な雰囲気が感じられるポスターだったなと。
というのも、洋館の設えと上品な洋服と色調のクラシカルな雰囲気の中で、優作の側だけ写真がまさに燃えようとしている。
まるでこの人物だけ存在しなかったかのように、意図的に消そうとしているように見えるなと思っていたので、本当にその通りの結末になっていて怖くなった。
☆優作はいつどう生きられたら良かったのか
そして、優作という人物が本当にブレない人で、自分の真意をほとんど明かさず、誰かが察することも許さず、底なしに自分の”正義”への欲求に基づいてのみ行動する人間である、ある種の狂気・恐怖を感じさせるところも流石。
だって、あの妻すら敵わなかったのだから。
証拠であるノートのみをあえて通報することで行動を起こした聡子も凄いけれど、フィルムをすり替え、おそらくもう二度と会えないのを覚悟で全てを自ら引き受け、”密航者”としての聡子をあえて通報し、あの結末に至らせたのは本当に驚いた。
「あなたもよくご存知の方です」
という台詞、2回出てくるけれどそれがお互いだったなんてこの夫婦怖すぎるだろ…って正直思いつつ、 それでも、思い返すと優作は全部最初からそのつもりだったのだろうなと。
何故なら、彼はコスモポリタンかつ個人主義者であると自ら話しているし、正義という軸から決して外れないから。
個人の権利や幸福を追求するという考え方と、自分の正義や信念を通すためには命すら惜しまないという姿勢、両者とも繋がって一貫してはいるのだけど、とても危うく、そして彼は少し生まれる時代を間違えてしまったとしか思えなかった。
彼が時代の先を行き過ぎたし、時代は彼にとって遅すぎた。
…というか、今だって追い付いていないのかもしれない。
優作のような人間が生きられる時代はどこにあるのだろう?
☆「不正義の上に成り立つ幸福で君は満足か」
この台詞、最初に新宿ピカデリーの入り口の柱一面の広告に記載されていたのを見て、なんて格好良く、真実を衝いた言葉なのだろうか、とため息がでた。
でも観終わった今は、とても複雑な気持ちで帰りにそれを眺めていた。
だって、あんまりにも、あんまりにも哀しいじゃないか。
全ての言動の根拠がただ愛する人と一緒に居たいだけだった聡子と、聡子のことも愛していたけど、愛よりも正義に殉ずるしか選択できなかった優作は、どう考えても平行線でしかない。
決してその運命は交わらないだろうな、と思って本当にその通りだった。
この世界は、そしてそこで生きる人々は、愛でも正義でも、言ってみれば感情でも道理でも、正しく図って理解して、また等しく思い通りに謀ることもできないのではないかとただただ思った。
優作が聡子に「スパイではなくてコスモポリタンなのだから、君もスパイの妻なんかじゃない」と話すシーンがあったかと思う。
それから、最後に精神病院に入れられている聡子は、野崎に自分は全く狂っていないと言いながら、「狂っていないことがこの国では狂ったことにされてしまう」と話していた。
歴史の中では優作は「国家反逆者のスパイ」として”始末”され、聡子は「スパイの妻」として病院に押し込められる、その力のそこはかとない暴力性と残忍さに、私は怒りを覚えた。
そう、観終わった後一番感じたのは怒りだった。
ずっと不条理に満ちた世界に私たちは抗うことはできないのだろうかって、最後の聡子みたいに海辺でたった一人にならなければ、声をあげて泣くこともできないのかって、静かに怒っていた。どうしたらいいのかわからなかった。ただただ悔しい。
★おまけと感想
☆音楽
長岡亮介さん、元々椎名林檎さん経由でいろいろ神出鬼没なところを追ったりしているファンなので、今回本作のような映画に音楽を提供されるのは、ちょっと意外なイメージだった。
実際観ていても、全く普段のギタープレイやサウンド面からは想像できないようなクラシカルで重厚な音楽が紡がれていたので驚いた。
普段、浮雲名義でライブでふざけたりはっちゃけたりされている姿からは、失礼ながら想像できないような雰囲気。
☆結びに
NHK8K版を観たかったと思いつつ、その視聴環境をクリアした人にしか観られないのはあまりに惜しい。
映画化されて本当に良かった。関係者の皆さんありがとうございます。
やっぱりドラマ仕立て
例の映画で激混みの中避けるようにこちらへ
高橋一生と蒼井優のロマンスドールは良かったので
これも楽しみに観賞
後で知りましたがこの作品はBS8Kでやってた
ドラマの再編集劇場版なんですね
BS8Kのドラマなんてどんだけ観た人がいるのか
と思ってしまいますが…
黒沢清監督でキャストも豪華だし気合い入って
いたのでしょう
感想としては
やっぱりドラマ
チープな絵作り
題材もえ…今さら…という感じ
海外の人は森村誠一知らんか
などちょっと映画観た感が薄い感じでした
太平洋戦争開戦直前の日本
貿易商を営む福原優作は満州への営業先で
思わぬ国家機密を知ってしまいそこで出会った
女性や妻聡子を巡る運命に翻弄されるストーリー
その機密ってのが
まさに1980年初頭赤旗に連載されていた
森村誠一「悪魔の飽食」で触れられた細菌兵器部隊のそれ
NHKもBS8Kとか誰も知らないとこでコソコソ
こういうネタやってるんですね
まあフィクションだからいいけど
映画は全体的にテレビドラマの30フレームっぽい動きで
どうも映画観てる気になっていきません
高橋一生も蒼井優も流石の表現力を披露していますが
前半は浮気の探り合いみたいでだいぶ退屈な感じで
進んでいきます
描写も疑問なとこあります
優作が機密文書を妻にこれ見よがしに金庫に入れるのですが
ちょっと前に妻は金庫の開け方を知ってると優作に言っている
のにそうしてしまい聡子はその文書を取り出すのですが
わざとやらせたようにしか見えません
それくらい聡子の行動力を優作が甘く見ていたとも
言えるのかもしれませんがなんか聡子の性格も中盤から
別人のように変わってしまうところも不自然な感じがしました
あえて金庫から盗ませた?と考えてもそんなにうまい方法
にも感じないし
この映画はヴェネツィア映画祭銀獅子賞を獲ったという
ニュース等で知りましたがそんなかなぁという感じでした
それを知らないで観に行ったとしても感想はあまり
変わらなかったかも
あと受信料とって運営してるNHKが映画で
興収得ようとしてるのもなんか違和感はあるといえばありますが
こんな映画公開の規格もあるなら尚更24フレームとかで
作っていった方がいい
気がしました
スパイの妻? ルパンの妻じゃね
蒼井優と高橋一生のコンビはラブドールの映画以来。黒沢清監督おめでとうございました。
面白かったげど、731部隊がらみじゃ、ちと笑えない。森村誠一の「悪魔の飽食」売れましたね~ 10年前まで持っていたけど、ブックOFFに売ってしまいました。二束三文で。
告発する意思もどこまで本気か?みたいな。所詮、商売人だからね。ジャーナリストじゃないし。儲けた金を宝石や時計に替えて渡航費に。けちな時計じゃ重くて大変です。
高橋一生はテレビドラマでの役どころだとストーカーとか女々しい役がけっこう嵌まっちゃうから、やっぱ嘘くさい。
フィクションなんだから、終戦になったとか、福原なにがしの死亡が記録されたけど、偽造書類かも知れないなどの最後のテロップはいらんな。
せっかく日本映画らしく、波の寄せる砂浜で蒼井優を泣かせたんだからそれで終わりでいいじゃん。
亭主をとことん疑い、売国奴とまで言っておいて、それでもロスについて行くお金持ち女の浮わついた感じ。最後の無声映画フィルム上映後の蒼井優は良かったよ~ 精神病院(癲狂院)に入っても、毅然としていなさる。タダモンじゃない。コンフィデンス夫婦?
あのちっちゃい船じゃサンフランシスコには行けないし、インドのボンベイも無理。なんか、ルパン三世の最後みたいと思った。銭形警部が悔しがるシーンが浮かんでしまった。銭形は言いたかっただろう。売国奴の非国民って。
しかし、映画愛が根底に溢れているので、これらは全部帳消しにしてあげます。面白かった。
テレビ東京の深夜ドラマ「まどろみマーメイド」のあの娘出てきた。昔、満州にはあんな感じの女の子いたなと思わせるキャスティングでした。軍医の愛人とか言ってだけど、実験ノートを持ち出させたと言うことは、高橋一生がたぶらかしてさせたんだから、あやしいに決まってます。甥っ子はそれを見ていて羨ましかったにちがいない。あぁ、可哀想に爪を剥がされて。歯に見えたけど。それも子供の乳歯みたいだった。
夫婦の映画
この映画は戦前戦中の不穏な空気を描いた映画ではなくて、その背景の中での夫婦の騙し合いの映画ですよね。彼女にとって大日本帝国とか戦争なんかどうでもいいわけで。大事な手書き資料の存在を憲兵に密告して、夫の甥が拷問にかけられても、それは主人と一緒に時間を過ごすための彼女の策略に過ぎなかったりする。残酷だし、正義もへったくれも何もない彼女の行動であるわけで。彼女はただ夫と共通の体験がしたいし、向き合いたいと思っているだけ。だから、夫が満州からこっそり連れ帰ってきた女性の存在に嫉妬心を燃やす。彼女はすぐに謀殺されたというのに。関東軍の残酷な人体実験など関係ない。ところが最後で自分よりも夫の方が一枚上手だったことを知り、彼女は狂ったように叫ぶ。「お見事です」と。そうした、時代の空気と別のところにある「残酷さ」や「駆け引き」や「壊れっぷり」が黒沢映画的なスリラーやサスペンスの要素と非常にマッチしているところが素晴らしい。時代の狂気ではなく、その時代の女性の狂気がホラーになっているところが黒沢的だ。黒沢監督の東京芸術大学での教え子であった、濱口竜介さんと野原位さんと黒沢監督が共同脚本しているわけで、さすがに黒沢映画の核心をよく分かっている人が書いた脚本だと思います。あと、最後の方に登場する笹野高史がいいな。本当に彼女が狂っていたのか、狂っているのか分からないいうシーンのつながりを示すのに、彼の存在が効いていたとおもいます。
【”狂っていない事が狂っている、この国では・・”コスモポリタンの妻が大戦に邁進する日本の時流に翻弄されつつも、夫への想いを貫き、自我、矜持を保つ姿に感銘を受ける。蒼井優さん、”お見事です・・”】
-1940年神戸。福原聡子(蒼井優)は貿易会社を営む自称"コスモポリタン"の優作(高橋一生)と裕福で幸せな生活を送っていた。だが、優作が部下の文雄と共に中国、満州に出掛けて”ある出来事”を現地で見てしまい、その事実の記録を秘密裏に中国から持ち帰ったところから二人の周囲には暗雲が徐々に立ち込める。-
■印象的なシーン
1.序盤、未だ平和だった優作が営む福原物産の忘年会で流された”聡子がスパイ役として金庫から何かを盗み出す瞬間、手首を掴まれ逃げる途中射殺される”余興の短編。
ーこの白黒のショートフィルムの意味合いが後半効いてくる。又、聡子を演じた蒼井優が仮面の白いマスクを取られた時に映し出される”美しく、鋭き目。”-
2.勇作と部下の文雄が、満州で見たある事実。そして聡子に知らせず、満州からある女性を連れ帰った理由。
ー劇中で固有名詞は出て来ないが、誰が観ても、旧帝国陸軍731部隊が満州で行った事である。だが、黒沢監督はこの事実の糾弾に重きを置いているわけではなく、包括的に当時の大東亜圏構想に邁進していく大日本帝國を批判的視点で描いている。-
3.聡子が14歳の時からの知り合いの神戸憲兵の分隊長、津森(東出昌大:純な青年が帝國思想に侵されていく姿を抑制した演技で魅せる。良い。)が序盤は恋心を抱いていた聡子に対する丁寧で愛おしむような態度から、聡子がスパイ容疑をかけられた際の、旧日本帝國憲兵として、変容して行く姿。
ー恋心を抱いていた女性を売国奴と罵り、平手打ちする姿。-
4.聡子が優作のコスモポリタンとしての考えに共鳴し、二人が”誤解”を乗り越え、アメリカに密航しようとするシーン。
ーあの”通報”の主は・・。小舟の上から笑顔で手を振る優作の姿。-
5.聡子が”国家反逆罪”など複数の罪で神戸憲兵分隊に連行されるシーン。津森は彼女が持っていたフィルムを幹部の前で流す。そして、スクリーンに映し出された映像。
ー驚愕する聡子。そして、”お見事です・・”と言って気を失うシーン。優作の自身の信念を貫こうとするが故の行為なのか、聡子の身を案じての計略なのか・・。その両方なのか・・。その解釈は観客に委ねられていると私は思った・・-
6.1945年、日本の敗色濃厚な中、聡子が精神病院のベッドでぼんやり座っているシーンと、その後の病院が爆撃されるシーン。
ーこのシーンで、聡子が信頼している大学教授(笹野高史)に話す言葉。そして、爆撃後、中庭に出て叫ぶ言葉。-
<黒沢清監督の作品の画には、仄かに暗いトーンが多用される。
今作では、1940年代の日本の町の意匠の素晴らしさと、徐々に戦争の災禍に陥っていくトーンの陰影の付け方が印象的である。
だが、何と言っても、聡子を演じた蒼井優さんの夫への信頼、疑念の狭間を行き来する心持を圧倒的な演技で魅せる姿に魅了された作品である。>
■追記
2020年10月17日 NHKで放映された”世界のクロサワ「スパイの妻を語る」”の中で、黒沢清監督が、”映画館で見る映画の魅力”について語った言葉は、実に的を得た言葉であった・・。
嬉しかった・・。
タイトルと物語の展開に最後まで違和感が拭えず…
出だしは淡々と始まり、途中からテンポと雰囲気が変わり、社会派サスペンスとしてどんな展開で観客を裏切ってくれるかと期待していたが、大方の観客が予想するような「普通」の結末に拍子抜けしてしまった。
主人公の福原優作が言うように、彼は別に「スパイ」ではないし(いわば「内部告発者」)、妻の聡子も「スパイの妻」ではない。
国際的な人権問題に敏感な現代の世界であれば、彼の告発はとてもインパクトがあるが、列強が数々の残虐行為を行なっていたあの時代に国際機関に告発することの世論の反響と効果がどれほどのものか、生活を捨て妻を裏切り命を賭して米国に渡り行うべきものなのか、いまいち現実感が感じられなかった。
ストーリーについても、優作ではなく、聡子のほうが最後の最後で裏切っていればまだ現実的で不快かつリアルな展開になったのでは、とは浅はかな見解か。
蒼井優は決して嫌いな俳優ではないし、活躍を期待する俳優のひとり。ただ今回は昭和初期の上層階級の婦人を意識してなのかもしれないが、言葉使いや彼女の行動の一つひとつに違和感があり作品に集中することができなかった。
もともとNHKのドラマを映画版に再編集して作品とのこと。やっぱ映画館で観るにはちょっと物足りない内容かなぁと思ってしまう。
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