スパイの妻 劇場版のレビュー・感想・評価
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印象的な場面はすべて予告編がすべて
高橋一生さん、蒼井優さんの演技は圧巻で素晴らしかったです。
「狂っていないことが狂っている、この国では」のセリフが印象に残っています。
自分が狂っているのか、世間が狂っているのか。
あの時代に生まれていたら、私はどんな生き方をしていたのか。
ただ、映画の方はと言いますと印象的な場面や言動はすべて予告編がすべてのような気がしました。
穏やかさにある緊張感
NHKのドラマだけあって、奇抜な盛り上がりや音楽演出は控えめで、穏やかなタッチで触れていく展開はどこか安心感を覚えながらも、終始緊張感を保ち続ける絶妙な造りになっていると感じました。安定感あるトーンのおかげで物語にじっくりと没頭することができ、感情移入もしやすくなっているため映画のテーマ性と上手く相まっていい感じの持ち味になったのではないでしょうか。夫婦それぞれの想いや感情に含みを持たせ、奥行きを広げていることで映画の面白さを高めています。
しかしながら、重要となりうるセリフやシーンにおいて盛り上がりが欠けていたのも事実なので、そこは少し拍子抜けというか、惜しいと感じる所がありました。でもまあ、この穏やかなトーンは個人的にかなり好きなので、あまり気にならずに楽しむことが出来ました。
蒼井優さんに魅入る!
お見事!画が素晴らしく、映画を見たなという充足感
お見事!君に嘘をつくようにはできていないのだから --- 敵を騙すにはまず味方から。久しぶりに、あぁ"映画"見たなという充足感に満たされた。どの画を切り取っても素晴らしく決まっていて、意味が伝わってくるよう。例えば作中でも言及されている溝口健二のように距離のあるカメラワークで、とにかく動き回る演者を捉える。画作りが極上、見せ方がうますぎる。役者陣(言わずもがな主役二人)に、例えば衣装(優作の着ていた洋装すべてほしい)、美術、照明、撮影といったスタッフの才能と尽力・連携、そして何より黒沢清監督の新たな傑作誕生。NHK得意の歴史モノと4K/8Kといった技術革新を持ってして、自身にとって新たなジャンルに挑む監督の本気を見た。
役者・蒼井優 × 高橋一生のスゴさ。蒼井優は言わずもがな圧巻に、裏表なく健気な妻像を演じながら、夫の秘密を知り葛藤しつつも夫にこれほどにかと一途な様 = 愛を体現する。おかげで僕たちは、(会話シーンで切返さず)話し手でなく聞き手の反応を映すという鏡の役割を果たす方法も相俟って、巻き込まれる側である妻が主人公であることの意味・意義を感じ取ることができる。ものすごく惹き込まれた、魅せられた。例えば話の筋だけ追いかけるなら普通、夫・優作パートをメインに据える方が簡単だろう。敵対する東出昌大が適材適所に国家の犬として分かりやすく全力の薄気味悪さ(小物感?)を出すのに対し、高橋一生は裏で何を考えているのか分からず、底の見えぬ多面性と、そうしてでも成し遂げねばならないという意志の強さを丁寧に出している気がして恐れ入った。自分のことだけを考え行動する妻すらも(語弊を恐れずに言ってしまえば)目的を果たすための手段・道具にように使うのか?それとも…
万死に値する
P.S. 念の為書いておくと、一生必殺の顔をクシャッとしたキラースマイルも何度か見られますよ!にしても甥かわいそう
今年映画館鑑賞57本目たぶん
映画好きには堪らない逸品
あの時、日本の全おじさんは心の中で叫びました。
な にぃぃ?
や ま ざ と だとぉ?
何でや?
何で、そうなる?
なんでやーー!
ゼぇゼぇゼぇゼぇ…
※ちなみに叫び声は爆音です。更に言うと「やまさと」です。
ですが蒼井優ちゃん、ますます良い仕事してます。良かった、良かったw
もうね。そんだけ。
731をバラしたらアメリカが参戦する理屈が分からないし、相変わらず非戦闘員が死ぬのは戦争が悪い事になってるし(悪いのはアメリカです)、客船が潜水艦に沈められてるし、さすがNHKと呆れてしまう内容です。正義感でアメリカを戦争に駆り立てるなんて言う考え方こそ、狂ってます。
妻を巻き込まない為のスティングは見事でした。
蒼井優に大女優の風格
《宮本から君へ》で蒼井優は色んな表情して凄いなと思ったんだけど、この作品でもすごいの。作品のスケールもあって、なんか後世の人が「令和の女優といえば蒼井優」と言いそうな風格があった。
画がいいの。オープニングの松がすごくて、そこに青色のドアと青色の制服。青はその後も意識して使われてた。逆光いれてきたり、その場にいる人をわざと画面の外に出したり面白い。他にも「え、この撮り方すんの」っていうカットがあって飽きないの。物語は前半は大きく動かないから、特にカットの面白さが目立つのね。
そのうち話が動き出して、夫婦が騙し合う展開になってきて、話が進んでくんだけど「これ、このままいくのかな、ドンデン返しくるのかな」って面白く観ちゃう。
そして色々あって最後の方で、蒼井優が野崎先生に「狂っていません」って言うところが、テーマなんだけど、まあ、そうですかって感じだったな。そして最後の海岸のシーンは分からなかった。まあいいや。
重いテーマを描きながら、エンタメ性も入れてきて、作品として成立させる黒沢清は凄いなと思ったよ。東出昌大と恒松祐里は、黒沢清に気に入られたみたいだから、頑張って欲しいな。
蒼井優さん、高橋一生さんの名演技
シンプルに…
超解像度とは?
う~ん・・・・・
カツベンさんやい、これに声を入れてくれ!
予告に惹かれたので鑑賞。
NHKで放送されていたドラマ版は少しだけ見て、面白かった記憶があるので期待値はそこそこ。
ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞したということで、さらに期待値は上がった。
受賞した意味がわかりませんでした。
クリーピーでもそうでしたが、私は黒沢清監督の作品が苦手なのかな...。光と闇の表現は良いんだけどね
戦争真っ只中の2本で外交官に勤める優作(高橋一生)は、満州に行った際に国家機密を知ってしまう。妻の聡子(蒼井優)は顛末を世に知らしめようとする優作をずっと信じていた。
映像はNHK×黒沢清ということもあり、とても美しい。聡子と優作が抱く希望と不安が光によって上手いこと表現されており、観客の興味を引かせる。
高橋一生は相変わらずカッコイイなぁ。
外交官がすっごく似合うし、ホントに品のある演技をする俳優さんなこと。適役すぎまっせ。
東出昌大も棒読みが目立つことが多いですけど、今回はかなり良かった。「おらおらでひとりいぐも」でも、蒼井優と共演しているので楽しみですな
今作最大の欠点は、映画である必要性が全くないということ。
前半は緊迫感が多少ありこれからの展開が気になっていたが、その期待もすぐに崩れ落ちる。
どんでん返しだったり衝撃の結末だったりが全く無く、なんだったんだよという気持ちで終わってしまう。
蒼井優主演作品はあまり見た事がないが、素晴らしい演技をする女優だなという印象が強かった。
しかし、今回に関しては何だか1人だけタイムスリップしきれてないようで浮いていた。
脚本も音楽も演技もCGも全てが中途半端。
いきなりだらけで話に着いていけず、着いていく気も失ってしまうほどつまらない内容だった。
ということで、映画である必要が微塵にも感じられない映画。これがまんまドラマとして放送されるとしても、最後まで見れる気はしない。
核心をついたわけでもないのでホント、なんでこの作品を見て銀獅子賞を与えようと思ったのか不思議でならない。贔屓じゃない?大丈夫?
〜余談〜
昨日の夜はあんなにも多かった客が、一気に減っている。公開日だったと言うともあるかもしれないけど、今日はあまりいなかった気がした。鬼滅の刃のファンは大人が多いのかな?
逆に今作はなかなか入っていた。賞を受賞したということがでかいのだろう。
お見事だけどしっくりこなかった
妻って。。
【観るものも巻き込むゲーム】
優作と聡子の会話の多い演出や、明るさが一定に抑えられている映像、戦争直前とはいえどこか整然とした街並みを見ると、舞台を観ているような感覚を覚える。
作品のモチーフとなった細菌部隊は、満州で活動した731部隊のことだ。
また、当時、ペストが新京や、近隣の街で、小規模だが実際に発生したという記録も残っている。
だが、物語にはスパイ活動や国家犯罪を暴くといったスリリングな場面は少なく、どちらかというと、戦争に向かう不穏な空気の中で翻弄される夫婦の心の揺れが描かれている。
それは、女と男の、妻と夫のゲームのようなものだ。
常に問われるのは、相手が自分を信じるのか、信じないのか。
この問いについては、通常は信じていないことが前提だ。
だから、信じるに足ると思われるにはどのようにしたらいいのか。
女と男は、お互いを信じるに足るように見せるため駆け引きを繰り返していく。
妻の疑念の背景には嫉妬がある。
夫にも嫉妬のようなものが見え隠れする。
妻が放つ矢は巧妙かつ大胆だ。
夫の信用を得るためには、身内でも利用するのだ。
スパイの妻はスパイそのものだ。
結末は…一見なるほどとも思うが、
意外なことに、実はエンドロール前のテロップが、僕達を惑わせる。
実は、騙されたのは、本当は国家であり、皆ではないのか。
二つほど場面を遡って思い出し、これは確信に変わる。
スパイの妻もスパイだ。
この2人は、実は2人で本懐を遂げたのではないのか。
観客も永遠に答えの出ない謎を突きつけられ、想いを巡らすしかないのだ。
この物語は、なかなか極上のエンターテイメントだ。
正しく世界を謀り、図れるものはあるのか
もう劇中の聡子よろしく「お見事!」…としか言えなかった。凄まじい本気の本気の映画だった。
あんなにどのシーンを切り取っても、画面の中の建築物・内装・衣装・髪型・照明等全て美しく洗練されている本当に素晴らしい芸術作品なのに、全セクションの本気さが終始スクリーンからほとばしっている。
静かで整った画面から秘められた熱いうねりを感じる傑作です。
★映像面について
☆光と影の美しさ
個人的に建築物や衣装のレトロさや色調が好きだったので、ポスタービジュアルの時点で優勝!と思っていたけれど、とにかくまずは照明が圧巻だった。
それだけでどういうシーンなのかがわかるようになっている。
例えば、聡子に満州の一件がバレる長回し(当たり前ですが芝居が圧巻です)のシーン。
倉庫内は基本的に暗いので全体的に暗めになりつつ、部屋の奥の方は隙間から光が差し込むので、そこに立つともれなく線状に光と影が体に映される。
特に優作はそこで満州での真実を話すので、その凄惨さや不穏さがより引き立っていたように思った。
家のシーンでは、聡子の背景によくステンドグラスが映り込むのが美しく、特にまだ何も知らない序盤では、ただ華やかさをプラスしたり、夫を想う妻の気持ちが滲み出たりしているイメージ。
私が一番印象に残ったのは、路面電車の中で2人が並んで座っていたシーン。
戦局によってアメリカに通常ルートでは行けなくなり最早”亡命”という手段しかない、と聞いた瞬間、聡子の顔のクロースアップに右の窓から光が閃光のようにぶわっと差し込み、一瞬画面を光が支配していた。
危ないと解っていながら、それはこの人の正義を貫くために共に闘える手段であるということを悟ったのだろう。おそらく不安や恐怖よりも、共に進むべき道筋が見つかったという覚悟とある種の喜びみたいなものすら、聡子から感じられた。
正解かどうかは分からないけれど、映画表現って凄いな、と呆然とスクリーンを眺めざるを得なかった一瞬。
☆スクリーン越しの視線の往来
もう一つ気になったのは、劇中映画の存在。
優作が聡子や文雄に演じてもらい撮っている、趣味の映画。
(一瞬パテ社のフィルムケースごとフィルム映ったり、映写機持ってたりするけど、あの時代に”趣味”で一式持ってるっておいくら万円?)
やがてその”映画を撮る”という行為が物語=虚構の記録ではなく、隠された真実の記録として機能していくアイテムとなる。
かつ、カメラを通して撮影する/されるという優作と聡子の関係性や視線の一方通行さを最初に提示しておいて、撮り終えた映画を上映することで、劇中のスクリーンから劇中の人々へ、更には本物のスクリーン越しに私達にも、芝居をしている聡子という体で視線が反対方向へと返されていく。
しかも、この後聡子は真実が隠されたフィルムの存在を知って、自分で映写機を回している。
つまり、撮られるだけの存在だった彼女が能動的に映像を観ようと行動を取るという変化が見て取れるし、そのフィルムの内容によって、 自ら真実を知ろうとして本当にそれを知ることになるし、
或いは映画の中の自らと視線がぶつかり、ラストにはその予想外の”視線の交錯”(=優作がフィルムをすり替えた結果)によって、死を免れることになる。
この多層的なスクリーンの構造・視線の営みに私はうっとりするタイプ(大学で専門だった)なので堪らなかった。
☆世界はフレームの中だけではない
出典は忘れたけど、一生さんのインタビューで「黒沢監督はフレームにとらわれずに撮ってくださる」みたいなことを仰っていた気がする。
私もそれを意識して観てみたら、例えば話している人間がメインにならずフレームアウトしていたり、頭や体の一部が切れていたり、本当にフレームに収めずに空間を使って芝居の動線をつけて、撮っているのだろうなと素人ながら感じた。
勿論、フレームに入る世界を徹底的に1940年の神戸として作り込んでいるリアリティとか美しさだけで惚れ惚れするようなシーンがいっぱいあるのだけれど、本来カメラによって視点を定めるはずの映像作品で、それを狭めないでこちらに委ねさせるような映像で、フレームの外にも世界の広がりを感じさせる点は、ある意味舞台的かもと思った。
★人物について
☆なぜ『スパイの”妻”』なのか
本作のタイトルが『スパイの妻』なのがすごく良いなって。
”スパイ”じゃなくて”スパイの妻”の映画であるということ。
キャスティングの理由が最後まで観てめちゃくちゃ腑に落ちた。
主演の二人と言えば、直前に『ロマンスドール』を経ているのでそのイメージも強く残っていたけれど、『ロマンスドール』だと一生さんが先にクレジットされていて、本作では蒼井優さんが先にクレジットされている。
それも両作観ればわかるけれど、今回は本当に蒼井さんが演じる聡子が全部話を動かしていくし、
特に終盤、すり替えられたフィルムですべてを察し、スクリーンの前で笑う姿が本当に凄まじい。
それから、台詞回しが本当に昔の日本映画の女優さんって感じで、第一声から衝撃的だった。
(ヒロイン像については、『キネマ旬報』の轟さんの寄稿がすごく面白かったのでぜひ。「クルッと回る」女が物語を本当に動かしていた。)
☆イセクラ的高橋一生の底力
そして、今回一生さんが夫役な理由もすごくわかる。
まず確信したのが、満州から帰ってきたシーンで抱き着いてきた聡子を受け止めるシーン。
優しく抱きしめつつ、視線の先には草壁弘子が居てそもそも聡子を見てないし、その目が全く笑ってなくて、しかも顎で「早く行け」みたいに指図しているわけで。
もうそのまなざしだけですごい高橋一生、と思った。
本当の意味では誰も見ていない、どこか感情の宿らないうつろなまなざし。
既に”この人は全部自分でやってのけるって腹括ってたんだな”っていうのが後でわかると、なおここが活きてくる。
また、彼は全部のシーンの言葉遣いが淀みなくて、スマートな所作でスーツも似合っていて、仕事もバリバリしている。本当に様になる人なのに、どこか常に不穏さと不確かさを漂わせる。
この人は目の前に居るようで、本当は居ないのではないか?
夫に対して懐疑心を募らせていく聡子と同じような感情を、スクリーン越しの我々にももたらすところが流石。
そして、終盤。後述するがフィルムをすり替え、実は全部引き受けていた優作が、
船に揺られながら霧の中に消えていくあの数秒間の、「してやられた」という気持ちと、「でも彼はそれをやると思ってた」と丸ごと腑に落ちる不思議な感覚。
聡子の狂った笑いと、レコードから聴こえる『かりそめの恋』の高い声と優雅なメロディと、溶け合って全部消えていく様、間違いなく白眉のシーンだと思った。
絶対に忘れないと思う。
これまでの一生さんの役柄でも何度も感じてきたけれど、この人ほど”不在にこそ際立つ存在”を演じたら右に出る人は居ないのではないか。
考えてみれば、そもそも本作のメインビジュアルが公開された時点で、不穏な雰囲気が感じられるポスターだったなと。
というのも、洋館の設えと上品な洋服と色調のクラシカルな雰囲気の中で、優作の側だけ写真がまさに燃えようとしている。
まるでこの人物だけ存在しなかったかのように、意図的に消そうとしているように見えるなと思っていたので、本当にその通りの結末になっていて怖くなった。
☆優作はいつどう生きられたら良かったのか
そして、優作という人物が本当にブレない人で、自分の真意をほとんど明かさず、誰かが察することも許さず、底なしに自分の”正義”への欲求に基づいてのみ行動する人間である、ある種の狂気・恐怖を感じさせるところも流石。
だって、あの妻すら敵わなかったのだから。
証拠であるノートのみをあえて通報することで行動を起こした聡子も凄いけれど、フィルムをすり替え、おそらくもう二度と会えないのを覚悟で全てを自ら引き受け、”密航者”としての聡子をあえて通報し、あの結末に至らせたのは本当に驚いた。
「あなたもよくご存知の方です」
という台詞、2回出てくるけれどそれがお互いだったなんてこの夫婦怖すぎるだろ…って正直思いつつ、 それでも、思い返すと優作は全部最初からそのつもりだったのだろうなと。
何故なら、彼はコスモポリタンかつ個人主義者であると自ら話しているし、正義という軸から決して外れないから。
個人の権利や幸福を追求するという考え方と、自分の正義や信念を通すためには命すら惜しまないという姿勢、両者とも繋がって一貫してはいるのだけど、とても危うく、そして彼は少し生まれる時代を間違えてしまったとしか思えなかった。
彼が時代の先を行き過ぎたし、時代は彼にとって遅すぎた。
…というか、今だって追い付いていないのかもしれない。
優作のような人間が生きられる時代はどこにあるのだろう?
☆「不正義の上に成り立つ幸福で君は満足か」
この台詞、最初に新宿ピカデリーの入り口の柱一面の広告に記載されていたのを見て、なんて格好良く、真実を衝いた言葉なのだろうか、とため息がでた。
でも観終わった今は、とても複雑な気持ちで帰りにそれを眺めていた。
だって、あんまりにも、あんまりにも哀しいじゃないか。
全ての言動の根拠がただ愛する人と一緒に居たいだけだった聡子と、聡子のことも愛していたけど、愛よりも正義に殉ずるしか選択できなかった優作は、どう考えても平行線でしかない。
決してその運命は交わらないだろうな、と思って本当にその通りだった。
この世界は、そしてそこで生きる人々は、愛でも正義でも、言ってみれば感情でも道理でも、正しく図って理解して、また等しく思い通りに謀ることもできないのではないかとただただ思った。
優作が聡子に「スパイではなくてコスモポリタンなのだから、君もスパイの妻なんかじゃない」と話すシーンがあったかと思う。
それから、最後に精神病院に入れられている聡子は、野崎に自分は全く狂っていないと言いながら、「狂っていないことがこの国では狂ったことにされてしまう」と話していた。
歴史の中では優作は「国家反逆者のスパイ」として”始末”され、聡子は「スパイの妻」として病院に押し込められる、その力のそこはかとない暴力性と残忍さに、私は怒りを覚えた。
そう、観終わった後一番感じたのは怒りだった。
ずっと不条理に満ちた世界に私たちは抗うことはできないのだろうかって、最後の聡子みたいに海辺でたった一人にならなければ、声をあげて泣くこともできないのかって、静かに怒っていた。どうしたらいいのかわからなかった。ただただ悔しい。
★おまけと感想
☆音楽
長岡亮介さん、元々椎名林檎さん経由でいろいろ神出鬼没なところを追ったりしているファンなので、今回本作のような映画に音楽を提供されるのは、ちょっと意外なイメージだった。
実際観ていても、全く普段のギタープレイやサウンド面からは想像できないようなクラシカルで重厚な音楽が紡がれていたので驚いた。
普段、浮雲名義でライブでふざけたりはっちゃけたりされている姿からは、失礼ながら想像できないような雰囲気。
☆結びに
NHK8K版を観たかったと思いつつ、その視聴環境をクリアした人にしか観られないのはあまりに惜しい。
映画化されて本当に良かった。関係者の皆さんありがとうございます。
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