「言いたいことが溢れてきてしばらく放置しての感想」スパイの妻 劇場版 asicaさんの映画レビュー(感想・評価)
言いたいことが溢れてきてしばらく放置しての感想
まずはモチーフになっている731部隊について。
いつだっただろうか。
731部隊に属していたという男性が顔を隠して報道番組に告発の形で出演していたのを見たのが知るきっかけではあった。1980年前後だったかも知れない。
戦後間も無くであれば彼は捕らえられて極東軍事裁判で間違いなく死刑。
ひっそりひっそりと息をするのも控え目に戦後の日々を暮らして来たに違いない。
その後その内容が明らかになるにつれ731部隊のおぞましさに驚愕したものだった。
医者だけでなく科学者は好奇心に打ち勝つには倫理観の有無もしくはその量でしかあり得ない訳です。
もし、こうだったなら?
人間の体とは?
そういう実験内容を克明に記録し続けたのが通称石井部隊である731部隊。
終戦時、その資料の完全引き渡しによって部隊の上層部は戦犯から逃れた。
そしてそれはミドリ十字という製薬会社に引き継がれその製薬会社の引き起こす薬害エイズにとさらに繋がっていく。
厚生省(当時)と製薬会社の癒着、そして帝京大学の安部教授を巻き込む血液製剤が絡む血友病患者のエイズ罹患。
悪夢は全然終わってなんかなかったのだ。
そういう事を、生きて来た中で実感として感じてた。
この作品においては、これでもかなり辛辣に描いたつもりなのだろうか。
こんなに簡単な?単純な?話じゃないと、まあ思ってしまうが、この話の主題はそこじゃない。
主題。
それは、妻の心である。
妻は自分の知らない所で夫が何事かを成そうとする事が嫌だった。
例えそれが如何に大それた事でも自分も夫とともにありたかった。
自分だけしか頼るものはない、夫をそういう状況に追い込む事、それが妻の望みだったのだ。
そして夫とともに成する者が自分である事、その高揚感が喜びとなった。
夫はそんな妻が足手まといになると確信していた。
だから妻を振り切った。
彼女が、きっと安泰であるだろうとの安易な推測で。
夫もまた こんな事で世界をなんとか出来ると考える若輩者である。
アメリカを世界大戦に引き摺り込む?
そんな事は連合軍はとっくに望んでいた事でありそのきっかけを作った結果のハルノートであるわけだが彼はそんな事は知る由もない。
そして真珠湾を経て日本は敗戦へと繋がる。
だから、そんな世界情勢は彼らにとってはネズミ一匹の動きにさえならない。それに右往左往する愚かな若社長なのだ。
女心 ただそれに言い尽くされるそれを
自分は世界というものを見たいという好奇心で捨てた男。
その夫婦の物語。
だから 言わば 遊びスパイと遊びスパイの妻。
という意味でこの題名はひどく風刺が効いているのである。