「見応えのある優れた映画」スパイの妻 劇場版 星月夜さんの映画レビュー(感想・評価)
見応えのある優れた映画
6月のNHK BS8Kドラマ未鑑賞。黒沢清監督の作品が好きなので期待して公開を待った映画。
しかも第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞と最優秀監督賞を受賞という快挙おめでとうございます。
近頃、軽めの優しい邦画ばかりみていたから歴史の闇にスポットを当てた濃い本作の虜になってる私です。
鑑賞後に次から次へと溢れてくる感想、解釈、疑問。
また見たくてウズウズする、まさにミステリ作品。
NHK製作だから時代考証がきちんとしていて太平洋戦争開戦間近の日本という不穏な時代が体現されてる。
なんとなくセピアがかった画像の色遣い、話し言葉、調度品や服装・髪型、建物や人波、人びとの思想などなど…戦争の頃に生きた人びとが次第にいなくなり、戦後のことしか知らない私たちが当時の日本を知ることの重要さを感じる今日この頃。
国家機密という部分が歴史的事実をベースにしているということもあり、それだけでもこの映画の意義は大きいと思う。
主演の夫婦役の蒼井優さんと高橋一生さんに引き込まれた。
1940年の満州で恐ろしい国家機密を偶然知ってしまった夫の正義感とスパイの妻と罵られても愛する夫を信じて共に生きることを願う妻の想いが巧みな演技で表現されていく。
そして濱口竜介さん野原位さんという若手の脚本が素晴らしい。
さすが黒沢監督の弟子!
歴史的背景を大切にしながらの前半の謎解き要素。
そして後半の夫婦の間で交錯する疑心と愛情。
そして真意がはっきりと解明されないまま幕が閉じる結末。
そこが何通りも解釈ができて惹かれます。
久々に友達と一緒に話し合いたい気持ちになる作品。
軍人姿の東出昌大さん、ホッとした笹野高史さん、女中役の恒松祐里さん。そして甥っ子役の坂東龍汰が存在感を発揮。
黒沢作品独特の音の使い方も良かった。
優れた脚本、優れた演出、優れた役者の演技、ロケ地・美術・音響…などなど
優れた映画というのは様々な要素がうまく絡み合って完成するものだ、とつくづく思う作品でした。