劇場公開日 2020年10月16日

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「劇中も鑑賞後も「お見事!」と言わざるを得ない作品」スパイの妻 劇場版 わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5劇中も鑑賞後も「お見事!」と言わざるを得ない作品

2020年10月18日
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 「ロマンスドール」とは何だったのか…と問い詰めたくたる蒼井優×高橋一生の最高の愛の形でした。素晴らしかったです。

 まず、予告編の作り方がある意味スパイというか、こちらをだましている感じがして、鑑賞後「お見事でした!」(劇中に蒼井優が言うセリフです)と言わざるを得ないプロモーションだったと思います。

 要は、スパイである部分、国家秘密を知ってしまってそれをどうするかというのはある意味付属品であって、本質的には「この夫婦愛を認められるか」という作品だと思いました。

 高橋一生さん演じる夫は「君には嘘をつけない身体になっている」「だからその質問には答えられない」「この話は終わりだ」というはぐらかし方をしつつ、実際は妻を巻き込みたくないのか、それとも妻をそもそも愛していなくて、ある意味重い愛に辟易しているのか、観る側に解釈を委ねる絶妙なバランス。ドラマ「カルテット」や「僕らは奇跡でできている」など、飄々とした佇まいで、理屈が通っているのやら通っていないやら微妙な長セリフを言わせたらもう鉄板でしょう。素晴らしい演技だと思いました。

 蒼井優さん演じる妻は、夫が国家秘密を知っているのでは、売国奴と罵られるのではという不安に苛まれ、「夫を信じている」と言いつつも、どこか信じられず自分の目で真実を確かめようとする、弱くて強い妻を、どこか儚げに演じられていました。新作出るたびに思いますが、本当に演技がすごい。こんな演技を見てたら、真の愛情表現をされても心底そう思っているの?と疑念を持ってしまうなと僕が山里亮太さんだったら思います(笑)

 結局、国家秘密を見て見ぬ振りができなくなった夫妻の様子から、あなたならどうする?そしてこの夫の判断、妻の判断をどう考える?と、こちらに考えさせる余白を与えつつ、実際に戦争は進んでいってしまったというノンフィクションを重ねて、結末に重みをもたせるという本当に優れた映画だと思いました。 クライマックス付近で蒼井優さん演じる妻から発せられる「私は狂ってないんです。でもこれが狂っているのかもしれません。この国では。」というセリフの真意と、海辺で打ちひしがれる泣きの演技に打ちひしがれ、エンドロール前のテロップで『いやあ・・・・そうだよね・・・・』とがっくり来る感じ。いい映画体験でしたよ。

 あと、これは蛇足ですが、憲兵という権力を使って実質不倫調査に勤しむ東出昌大さんも最高でした。これは実生活と切り離して観ろと言われても無理です。逆にこういう見方をすることで、深みが増してしまうわけです。

 演出も、黒澤明監督らしい、長回し・長セリフが絶妙に効いていました。特に長セリフ中、演者の顔を正面からとらえるカットが極端に少なく、画面外からか背中だけ映すのが多いのが良かった。その背中は希望を示しているのが絶望を示しているのか、能動的に楽しめる工夫が至る所にされているのが良かったです。せりふ回しも、当時っぽくもあり現代にアップデートされてるところもあり、間口の広さを感じさせました。

 何度も見返したくなる作品だし、ラスト10分のパワーに何度でも打ちひしがれたい、最高の映画でした。ベネチア国際映画祭の銀獅子賞獲得、おめでとうございます!

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わたろー