「ひとつひとつはどうってことないのに、したたかに揺さぶられます」スパイの妻 劇場版 グレシャムの法則さんの映画レビュー(感想・評価)
ひとつひとつはどうってことないのに、したたかに揺さぶられます
なんとも困った映画です。
めちゃくちゃ人に勧めたいのに、「どんな映画なの?」と聞かれても、たぶん言葉に詰まるのです。
迂闊にテーマ性を持ち出して語ろうとしたら、墓穴を掘ることになりそうです。例えばいきなり、戦争という状況での選択が……などと言い始めたら「いやあー、そこから入るのはちょっと…」と自分でも引いてしまう気がします(あくまでも個人的な感覚で、他意はありません)。
ミステリーやサスペンスというには無理があるし、そうきたかっ!という驚愕のどんでん返しというわけでもなかったです。ひとつひとつのエピソードを思い起こしてみても、どうってことのない展開の積み重ねなのです。
それなのに不思議なほど、どんどん作品世界の中に引きずり込まれていきます。
演じ手としては蒼井優さんが断トツに光ってます。
地力とか地アタマという言葉がありますが、そういうニュアンスでの〝地女優力〟には屈服するしかありません。
ファンの方には申し訳ないのですが、高橋一生さんもその力に引っ張られて、役者力が一段上がったのではないか。そんな風に感じてしまうほどでした。
プレイヤーの力を100%以上引き出した黒沢監督。
陰影を駆使した世界で、お揃いの制服や統制された世界が醸し出す様式美を最大限に引き出していました。
戦争とか全体主義的な権威への嫌悪感とは裏腹に、生理的な部分で、ある種の美しさや憧憬を抱かせてしまう魔力があることをよくご存知なのですね。
お見事です。
あの時代、あの場所。
どちらにもまったく縁のない私なのに、とても懐かしいものに触れたようなぬくもりを感じることができる、なかなかにしたたかな映画だと思います。
おはようございます。
〝地女優力〟 成程。
地頭は良く使う言葉ですが、この言葉も良いですね。それにしても、凄い女優さんでだなあ・・、という事を作品の面白さと共に堪能しました。
夜遅くでも、観に行って良かったです。
では、又。