劇場公開日 2020年10月16日

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「超高解像度の撮影で登場人物の心情を表現」スパイの妻 劇場版 和田隆さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5超高解像度の撮影で登場人物の心情を表現

2020年10月14日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

元々は今年6月にNHK BS8Kで放送された同名ドラマを、劇場版としてスクリーンサイズや色調を新たにし、1本に再編集したものです。物語の舞台は太平洋戦争前夜、1940年の日本。相反するものに揺さぶられながら、抗えない時勢にのまれていく夫婦の愛と正義を賭けた様を描いています。

ロケ地、衣裳、美術、台詞まわし、すべてにこだわったというだけに一級のミステリーエンターテインメントに仕上がっていて、これまで黒沢清監督が手掛けてきたものとは一線を画すようなテーマ、物語とも言えますが、8K・スーパーハイビジョン(超高解像度のテレビ規格)撮影によるその映像表現には舌を巻きました。

脚本には「寝ても覚めても」の濱口竜介、「ハッピーアワー」の野原位と海外で評価された才能が参加し、音楽は「ペトロールズ」「東京事変」で活躍するミュージシャンの長岡亮介が手掛け、黒沢監督よりも若い世代との化学反応を起こしています。そして、美術の安宅紀史、衣裳の纐纈春樹が再現した昭和初期の世界観も見どころのひとつです。

主演は、テレビドラマ「贖罪」、映画「岸辺の旅」で黒沢組に参加している蒼井優。「ロマンスドール」に続いて高橋一生が蒼井と夫婦役を演じ、ふたりの心情の変化を繊細に表現。憲兵の分隊長を演じた東出昌大とともに確かな存在感で監督の演出に応えています。

黒沢監督は最初から劇場公開も視野に入れて、映画として作り上げていることがうかがえます。スパイものというジャンルの枠組みのなか、超高解像度の撮影でどこまで登場人物の心情を表現できるのか、光と影(闇)を意識し、これまで以上にあえてクラシカルで様式的なリズムに則った演出は必見です。

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和田隆