「高級フレンチVSコンビニナポリタン」名も無き世界のエンドロール つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
高級フレンチVSコンビニナポリタン
サンタの衣装に身を包んだ「キダちゃん」と、高級そうなスーツ姿の「マコト」が通話するシーンから、物語は始まる。
キダちゃんとマコトの会話からは、クリスマスらしい浮かれた計画を画策しているような印象を感じる。
その直後に、雪舞う暗闇に佇むマコト、側にそっと並ぶキダちゃん、という全く印象の異なるシーンが挿入される。
さすがに原作が小説だけあって、物語の構成がしっかりしている。同じ言葉・同じセリフを、違う登場人物が口にすることでリズムと絆が生まれ、物語に厚みが感じられる。
そして、小説の持つ構成力を、可能な限り映像に落とし込んだ作りは、なかなか見応えがある。
むしろ、過去と現在を行ったり来たりする「語り」は、一瞬で場面が転換した事がわかる映像の方が相性が良い、とも思える。
冒頭の暗闇に降る雪、オレンジ色の髪・リュック・パーカー・首輪、ナポリタン、押しボタンなどの断片が、効果的に配置されている。
高級フレンチに行きたがる人、ファミレスのナポリタンを愛する人。住んでいる世界の違いを、食事に絡めて表現しているところも良い。
マコトを演じる新田真剣佑は、特に高校時代の演技が今まで観たどの作品にも当てはまらない演技で(素なのかもしれないけど)、良い意味で衝撃的だった。
キダちゃん役の岩田剛典は、特に演技派だと思ったことはないけど、滲み出る善人感が役柄のダークさと良いミスマッチを起こしてミステリアスなキャラクターに仕上がっていたと思う。
と、ここまでかなり誉めてきたけど、ストーリー・キャラクター共に高レベルで面白かったのに、観ている時の感情の盛り上がりはほとんど無かったと言っても良い。
目を瞠るようなエモーショナルなシーンが無くて、本来観ている側が「感じとる」べきところまで、懇切丁寧に説明されるようなお節介さが気持ちの盛り上がりを妨げてくるのだ。
良く言えば「わかりやすい」、悪く言えば「味気ない」作品なのである。
「面白かったけど、なんかフツー」率直な気持ちを飾らず表現するならそんなところだ。