「一体誰が、何が「はりぼて」なのか、考え込まされる最後の十分間。」はりぼて yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
一体誰が、何が「はりぼて」なのか、考え込まされる最後の十分間。
本作は2016年の富山市議会議員の議員報酬引き上げに端を発した、市議会の政務活動費不正受給問題を題材とし、それを追及する富山県の民放局記者の姿を追ったドキュメンタリー映画です。
そのためもちろん、登場する記者、市議、市職員らは全て実在の人物です。中には事件の過程で市議を辞職した人も、裁判係争中の人もいるため、良く本件を映画化できたな、と制作に携わった人々(まさに事件を追及した五百旗頭記者と砂沢記者が本作の共同監督を務めている)の熱意と勇気、そして使命感に頭が下がる思いです。
画面に映る五百旗頭記者と砂沢記者は、丁寧な口調でありながらも核心的な質問を当事者に容赦なくぶつける姿勢を貫いています。一方で彼らの共同監督作品である本作は、深刻な状況に気の抜けた喜劇調の音楽を挿入するなど、むしろ生真面目な雰囲気を脱臼させる演出を施しています。この対比的な演出をどのように着想したのか、興味深いところです。
本作の白眉は、不正を働いた市議達が、自身のついた嘘や隠蔽を暴かれ、狼狽するところではなく、最後の十分間のやりとりです。果たして題名である「はりぼて」とは一体誰のことなのか、誰もが深く考えさせられます。
本作を鑑賞した人の多くは不正を働いた富山市議の人々に怒りを感じるでしょう。ただ、彼らの多くは自分の行った不正(それも結構せこいものも含む)が明るみに出ると、それを認め、謝罪し、辞任しています(中には居座っている人もいるけど)。それに引き換え、では現在の国政において不適切な行為や不正が明るみになった際に、その当事者がその非を認め、責任を取っているかというと…。まだ本作の市議会の方に政治的な浄化の希望を見てしまうほどに、何とも皮肉な感慨を抱いてしまいます。
パンフレットにはいくつもの解説や事件の顛末が記載されているので、読み応え十分です。解説を執筆した一人、金平茂紀氏(TBS『報道特集』キャスター)によるトークイベント(五百旗/砂沢両監督も出演)の内容が月刊『創』10月号に掲載されているので、興味を持たれた方はぜひ。