劇場公開日 2022年6月10日

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「記憶の中にだけある事実を取り出すアニメーション」FLEE フリー 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0記憶の中にだけある事実を取り出すアニメーション

2023年9月30日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

人の記憶は直接カメラで撮影できない。アニメーション・ドキュメンタリーというジャンルが重要なのは、カメラで今現在、撮影可能なものだけが事実ではないということを言えるところにある。主人公アミンが蓋をし続けたアフガニスタン時代と難民としての過酷な記憶は、カメラで撮影不可能だが、事実だ。その事実を描くためにアニメーションが必要とされる。とりわけタリバン以前のアフガンの映像はあまり残っていないから、アミンの記憶にある、平和な時代のアフガニスタンの光景は非常に貴重だ。当然、難民として各地を転々とさせられた時もあのような旅にカメラは同行できない。実写の再現映像でもなくアニメーションでその記憶を再現することで、観客はよりアミンと記憶の共有をしやすい。抽象的であればあるほど、想像力は喚起される。
この作品がオスカーの長編ドキュメンタリー賞と長編アニメーション賞に同時にノミネートを果たしたことはとても大きな意味を持つ。映像の事実性というものについて、多くの人が思いを巡らすことになっただろうから。

杉本穂高