FLEE フリーのレビュー・感想・評価
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その勇気の重みを読み取る想像力が試される
1979年の旧ソ連によるアフガニスタン侵攻で激増したアフガニスタン難民は、近年でも約260万人(外務省サイト)、あるいは273万人(2020年、UNHCR)にのぼるそうだ。その中のひとりである実在の人物アミンの体験談が、本人の安全のためアニメーションで描かれる。あくまでドキュメンタリーであり、80年代から90年代当時の実写記録映像も多用される。
この作品は2021年に製作されているが、奇しくも今年ウクライナがロシアの侵攻を受けてから、ウクライナの人々が祖国を追われるさまを、報道の映像で多く見てきた。ニュース番組などで毎日のように接しているうちに、こちらがつらくて耐えられなくなるほどだった。その理由のひとつは、あまりに理不尽な蛮行が実力行使で堂々とまかり通っている、それが見るに耐えないこと。もうひとつは、自分の想像力が彼らの過酷な状況に到底追いつかないことだった。
そうした映像体験を経て四半世紀以上前の出来事を描いた本作を観ると、結局同じようなことが昔から繰り返されているのだという思いに至る。誰もがスマホのカメラで撮影する時代になったので、生々しい映像が増えた分インパクトの強い出来事のように錯覚するが、悲惨さは変わらないはずだ。アニメという表現方法は個人の特定を防ぐだけでなく、良くも悪くも描写のえぐみを抜くが、私の脳裏にはその部分の想像を補うものとして、報道されたウクライナの人々の姿が浮かんだ。
政治情勢に翻弄された人たちの過酷な状況をアニメで描いた作品としては、個人的には「トゥルーノース」のインパクトが忘れられない。この作品は生存者の証言を参考に作られているが、監督の信条でエンタメ的展開も組み込まれている。物語に揺さぶられると、作品の本来のメッセージも心に刺さりやすくなる。
本作はドキュメンタリーなので、そこまで都合よくこちらの感情を揺さぶる展開はない。
アニメは美しいが実写の生々しさはないし、モノクロのラフ画のような描写が用いられる部分もあるし、彼が本来の目的地と違うデンマークへ亡命してから研究者として身を落ち着けるまでの経緯の描写は省かれている。
また、彼は自分がゲイであることを打ち明けるくだりは、フィクションだったなら故郷を追われたことと性的嗜好とからくる二重の疎外感に苛まれる分かりやすい描写がありそうなものだが、この点は割とさらっと解決する。
「FLEE」(〈危険などから〉逃れる、〈安全な場所に〉避難する)という直球のタイトル通り、具体的描写の重点はあくまで逃亡生活の部分に置かれている印象だ。
アニメによって和らげられた部分、逃走描写以外の背景の細部は、観客の知識と想像力に委ねられている。リテラシーが試される作品のように思えた。
故郷とはずっといてもいい場所、自分の存在を拒否されない場所。生まれ育った地への思いを封印してそのような考えに至るまでに、どれほどの苦悩があっただろうか。
監督が幼馴染であり、アニメで容貌が隠されるとはいえ、特定されれば身に危険が及びかねない逃亡の現実を告白する決心へと、どんな思いが彼を突き動かしたのだろうか。
彼のような人間が作品に「出演」し(声は本人)秘密を告白する勇気の重さこそが、本作の凄みだとも言える。いわば犠牲者とも言える彼にそこまでしなければならないと思わせる、問題の複雑さと根深さを考えさせられた。
記憶の中にだけある事実を取り出すアニメーション
人の記憶は直接カメラで撮影できない。アニメーション・ドキュメンタリーというジャンルが重要なのは、カメラで今現在、撮影可能なものだけが事実ではないということを言えるところにある。主人公アミンが蓋をし続けたアフガニスタン時代と難民としての過酷な記憶は、カメラで撮影不可能だが、事実だ。その事実を描くためにアニメーションが必要とされる。とりわけタリバン以前のアフガンの映像はあまり残っていないから、アミンの記憶にある、平和な時代のアフガニスタンの光景は非常に貴重だ。当然、難民として各地を転々とさせられた時もあのような旅にカメラは同行できない。実写の再現映像でもなくアニメーションでその記憶を再現することで、観客はよりアミンと記憶の共有をしやすい。抽象的であればあるほど、想像力は喚起される。
この作品がオスカーの長編ドキュメンタリー賞と長編アニメーション賞に同時にノミネートを果たしたことはとても大きな意味を持つ。映像の事実性というものについて、多くの人が思いを巡らすことになっただろうから。
アニメーションとドキュメンタリーの可能性を広げた秀作
これまで感じたことのない手触りを持った作品だ。内容としてはドキュメンタリーに属するのだろうが、しかしアニメーションを採用することでその印象や浸透の度合いは全く異なるものとなった。アニメにした理由が「匿名性を守るため」なのは大いに納得するところだが、と同時に、いわゆるフラッシュバック構造が本作の随所に挟み込まれている点もまた、アニメだからこそ。これにより主人公アミンの逃避行は単なる「語り」でなく、家族の温もりや心の機微が際立って伝わってくる「実態」となった。祖国を離れ、ソ連では理不尽な暮らしを強いられ、他国への脱出にも命がけの覚悟が必要だったアミン。さらに彼がずっと胸に秘めたものを口にする場面が印象的だ。この瞬間、彼が二つの長い道のりを歩み続けてきた事実が鮮明となり、よりいっそう尊さがこみ上げてくる。並走して描かれる現代の恋人との関係性も含め、人間の尊厳をめぐる旅路がギュッと詰まった秀作だ。
テーマの重さ・深刻さと、ドキュメンタリーとアニメを融合させた柔軟さ・軽やかさ
アフガニスタンから脱出(flee)した青年を題材にしたドキュメンタリー映画と聞いて、まず昨年9月公開の「ミッドナイト・トラベラー」を思い出した。同作は監督とその家族の難民としての旅と暮らしを、本人と家族たちが数台のスマートフォンで撮影した手法がユニークだったが、本作「FLEE フリー」も手法のユニークさの点で引けを取らない。
本作の主人公は、諸事情(映画の中で具体的に明かされる)により本名を明かしていない。映画の中ではアミンという仮名が与えられているが、本人の特定につながる可能性のある周辺情報もぼかすか、事実から変更されているようだ。監督のヨナス・ポヘール・ラスムセンは、15歳の時に自身が住むデンマークのある町にアミンがやって来て以来の友人だったが、アミンが過去の過酷な体験をラスムセンに明かしたのはずっと後のことだったという。ラスムセン監督は友人の半生をドキュメンタリー映画化するにあたり、匿名性を担保するためにアニメーションで語ることを選択した。しかも、同じタッチのアニメで作品全体を語るのではなく、アミンの記憶に基づき客観的に再現するシークエンスは2Dのカラーアニメで、トラウマに結びつくような悲惨なシーンはモノクロ調の抽象的なタッチで描き分けられ、さらに時代時代の統治者や街の風景などが実写のフッテージで挿入される。
アミンとその家族が欧州へ逃れるために体験したことは、なかなか簡潔に言葉に代えられるものではないが、本作の秀逸な表現手法によって視覚的に“体感”することはできる。多くの人に鑑賞してもらい、難民問題に関心を持つ人、問題意識を深める人が少しでも増えることを願う。
日本に生まれて良かった
フリーといっても自由(Free)ではなくFleeは危険や災難などから「逃げる」という意味です。
映画の冒頭で「これは実話である 登場する人々の安全のため名前と場所を一部変更した」と出ます、アフガニスタン紛争で国外脱出した一家、末っ子のアミンが監督に過去の悲劇を語る難民ドキュメントです、アニメにしたのは本人の顔を隠すためですね。先にスウェーデンに亡命した長兄の必死の助けでなんとか生き延び、学者としても成功したようです、ゲイで悩む話はいらないでしょう。
つくづく、日本に生まれて良かったと思いました。
逃げ続けなければならなかった人生
主人公のアミンはアフガニスタンのカブールに生まれたゲイの青年。アフガニスタンと言えばイスラム主義組織タリバンが拠点とする国。
「Take on me」の歌と共に3〜4歳頃のアミンの記憶は、一寸変わった目立ちたがり屋だと思っていたが実は違った。5〜6歳にはジャン・クロード・バンタムに恋してた事はハッキリ覚えていた。高校時代を共にして、この映画を作ってくれた友達と「違う意味で僕も彼の事が好きだった!」と笑って冗談を言い合える様になって、アミンが少しづつ心を開く事に慣れて来たんだと感慨深く思わさる。
母国で同性愛者は認められず、家族の恥になるから自分がゲイであると分かっているにも拘らず、そんな自分を認めずらかった…
1989年戦争が始まり命の危険を察したアミン一家は危機一髪でロシアへ脱出したが、そこからが過酷な逃亡生活の始まりだった。
とにかく金に物言わせる腐った警察や密入国業者。大金を用意して家族を守ってくれた兄達。きっと今も尚、行方不明の父親がいかに家族思いの優しい人だったかと言う事が解ると同時に、この家族の絆こそ長年に渡る辛い逃亡生活を全うする事が出来た一番の要因だと思う。そして一番感動だったのは長兄がアミンのゲイに何となく気付いていて、何一つ咎める事無く彼を認めてくれたと言う事。
これからも一生、言ってはいけない事はあるのだろうけど、自分以外にも似た様な、若しくはもっと過酷な人達の為に、自分を犠牲にしても守ってくれた兄達への感謝と勇気を込めた唯一無二の映画だと思う。
国破れて受難する
生まれ育った国で生きていけない。明日、いや今この時、生きていられるかわからない。緊張が続く毎日が、不安でつらい。
アフガニスタンから難民としてデンマークへたどり着いたアミン。家族がいることも、同性を好きになることも、隠して生きてきた。ほんとのことを言ってしまったら、同性愛を禁止している母国へ強制送還されてしまう。人と本音でぶつかれないから、常に壁がある。彼の孤独は想像を絶する。
アニメでドキュメンタリーとは、独特な雰囲気で新鮮だった。実物より距離が出て、ぼやける感じが、逆にいいと思う。
Eテレの放送を視聴。
ドキュメンタリー風
ドキュメンタリー風で字幕だったので集中して鑑賞
主人公の気持ちになってみるととっても辛かった
ちょっと俯瞰でみると
密入国は命がけ ルールをやぶるんだから文句はいえないという当たり前のギリギリの暮らし
密入国を受け入れている側目線でみると、善人なのか悪人なのかわからない密入国者を可哀想だけでは受け入れられない不安
さらに、そもそも なぜこんな事になったのか難しすぎてわからなくなる 争いごとはこんなにも時間が経ってもなくならない 世界中の人々がもっと賢くならないと…教育は大事
LGBTQについてはあらすじに書くほど重要ではないように思えた。本人にとっては家族にすら受け入れてもらえるかわからない重大なことだし、描かないほうがおかしいこともわかる
Eテレで録画して視聴した昨夜
今朝は、議員の軽はずみな難民の子どもについての発言が偽造パスポートで入国したら犯罪なのに
と炎上してた
ルールを破ってでも命からがら逃げてきた人
命のためにルールをやぶる人
ドラマチックなことだけで美化されるのも怖い
助ける力がない国がどこまで格好をつけて受け入れるのか
国民内でも格差があるし犯罪が起こっている
さらに文化の違う人々を受け入れてサポートする
いろいろ考えると本当にわからない
なんとなくやり過ごして自分を守るしかない
もっと身近な問題も山積み…
難民として立ち位置
信じられないぐらい壮絶です
難民の苦労というのは報道やドキュメンタリーでよく語られているが、思...
色々考えさせられた作品
地上波で録画視聴。
アフガニスタン内乱時の出来事。
アニメとドキュメントの融合は色々考えさせられた。
この融合はこのような作品を制作するうえでヒントになりそう。
しかし、同性愛だったとは。
同性愛とアフガニスタン内乱がテーマならあまりにも重い作品。
言葉も出なかった。いい作品でした。
真実の行方は何処に‼️❓
アフガン難民
お金を払って、騙されて、死にそうになって、逃げるしかない。
アフガニスタンに暮らす男性が、戦争と圧政から逃れるために、密入国業者に法外な金を払っては騙されながら、途中の経由国からは弾圧されながら、なんとかスウェーデンに達する話。実在の人物のインタビューに回想シーンが重なっていく構成。そのすべてがアニメで表現される。
貧しいがそこそこ自由に楽しく暮らしていたアフガニスタンの少年とその家族。
だんだん過激なイスラム原理主義者が勢力を増してくるのがニュースで伝えられる。大統領はソ連の助けを借りて治安を守ろうとする。ところがそのイスラム過激派「ムジャヒディン」にアメリカが強力な武器を渡し始め、ソ連やアフガニスタン政府は苦戦する。治安もどんどん悪くなり、若者たちは徴兵されていく。徴兵されるとほぼ帰ってこないので、若者と家族は軍に入るのを拒んで国を逃げ出そうとする。崩壊が迫ったソ連が撤退すると、アフガンの治安は最悪となる。
父親が国を先に出てヨーロッパに渡り、アルバイトで金を貯めては大家族を1人ずつ、密入国業者に金を渡してヨーロッパに呼び寄せる。主人公のアミンもそうやって、異国にいる父が手配した密入国業者を頼っての脱出行、安いが故のずさんな手引きで死と隣り合わせの旅。密入国業者に頼るしかないばらばらの家族。
母国アフガニスタンの政府は、自分を軍隊に入れて死に至らしめるだけ。国を捨てようにも入国を受け入れてくれた唯一の国ロシアは、崩壊後でどん底に貧しく警察は腐敗して自分たちを暴力と搾取の対象にするだけ。さらに逃げ出そうとするが、バルト三国や他のヨーロッパ諸国も難民を受け入れようとしない。行き場のない、希望すらない、ただただ遠巻きに眺められながら放置されるアフガンの人たち。
その恐ろしさと絶望が延々とつづく。さらに主人公のアミンはゲイなのだ。そのことを家族にすら伝えられず、さらに苦しむ。
こんなに希望のない状態に置かれた人々がいたのかと愕然とする。ぼくたち日本人は彼らに比べたら、何万倍も恵まれているように感じたし、僕らが見聞きするニュースは彼らの現実とは正反対だった。
僕らもまた西側のイデオロギーの中にいて、支配し排除する側にいるのがよく分かった。ほんとに苦しい映画だった。
受賞を逃しはしたけれど、2022年の米国アカデミー賞で、国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門でノミネートされたのも納得の、訴える力のある作品だった。
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