「【不条理演劇の”ゴドーを待ちながら”を劇中劇として使用し、ラストは囚人たちに演劇指導していた売れない俳優が、見事に大劇場で”演劇”を締めくくる作品である。】」アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【不条理演劇の”ゴドーを待ちながら”を劇中劇として使用し、ラストは囚人たちに演劇指導していた売れない俳優が、見事に大劇場で”演劇”を締めくくる作品である。】
ー 不条理演劇の”ゴドーを待ちながら”は、恥ずかしながら鑑賞した事が無い。だが、今作を鑑賞する上で、詳細を知る必要はないと、私は思う。
何故なら、今作で囚人たちに演劇指導する事になった、エチエンヌ(カド・メラット)の姿を見ていると、十二分に不条理感を味わえるからである。-
◆感想
・エチエンヌが、囚人たちの矯正プログラムとして選ばれた5人の囚人たちに、不条理演劇の”ゴドーを待ちながら”を、六か月間で指導し、一度だけ劇場で演劇させることが決まるシーンから物語は始まる。
ー だが、囚人たちは、多士済々であり、中には文盲の男も居れば、息子に会いたいがために強引にメンバーになる牢名主の様な男もいる。だが、そんな彼らを、半年でエチエンヌは劇場に立たせなければならないのである。-
・最初の公演は、可なりハチャメチャであるがそれ故に、評判を取りエチエンヌ達は、次々に公演を重ねて行く。
ー 時には、メンバー同士の諍いがあったり、息子が来ていない!と、牢名主の男カメルが切れたり・・。又ある時には、公演20分前まで全員が呑気に床屋で喧嘩しながら散髪していたり・・。だが、評判は評判を呼び、ナント、パリのオデオン座での公演が決まってしまう・・。-
■当然、観ている側は、彼らがオデオン座で見事に”ゴドーを待ちながら”を演じきり、満員の観衆からスタンディングオベーションで迎えられる姿を、期待する。
勿論、私もそうであった。
だが、開演前になっても、囚人たちは会場から消え去り、パリの街中のあちこちで、自由を満喫している。エチエンヌへの感謝の想いを持ちながら・・。
<満員の観衆(その中には、協力してくれた女性刑務所長(マリア・ハンズ)や、エチエンヌの娘、法務大臣までいる。)の前で、お詫びの言葉を述べるエチエンヌの、”囚人たちを貶すのではなく褒め称える”言葉の数々は心に沁みる。
一年に亘り、素人同然だった彼らの努力を観客に訴える姿。文盲だった男が3ページにも渡る長台詞を言えるように成った事、牢名主の男が息子会いたさに、懸命に演じていた事・・。妻を愛する男が、妻に会いたくて台詞を覚えていた事・・。
そして、エチエンヌのスマホに掛かって来たカメルからの電話に、エチエンヌが、満場の観客からの喝采の声を聞かせるシーン。
満場の観客たちは、エチエンヌの言葉から、”その場には居ない囚人たちのそれまでの頑張り”を認識し、賞賛したのである。
冒頭に流れる、”今作は、実話である。”と言うテロップも、ラストに効いてくる作品なのである。>
<2022年7月31日 刈谷日劇にて鑑賞>