劇場公開日 2022年2月25日

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「変わりゆく街の風景の影に、空の郊外に見捨てられた月の隣人」GAGARINE ガガーリン とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0変わりゆく街の風景の影に、空の郊外に見捨てられた月の隣人

2021年12月15日
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宇宙船 in 団地でたった一人内緒の篭城戦…?月のおとなりで。ロシアの宇宙飛行士と同じ名前の実在した団地を舞台に、帰ってこない母を待ちながら一人暮らす少年を描いたカミングオブエイジ青春映画(と言うには語弊というか幾分影もある表現の責務と可能性的着地点)。
生活があって、けどそんな待つ場所を失うアイデンティティー・クライシス。ある日突然、行き場を失うことを突きつけられる主人公ユーリ。たとえ立ち退きを命じられ、母も帰ってこないとしても、彼にはそこしか残っていないから。人類は空に夢を見て、思いを馳せてきたから、空気(、水、土)のように心の拠り所。取り壊しの進んでいく団地で、ある意味似ている状況になっていく。陥っていく。壁に囲まれ、壁をぶち抜いて作り上げていく自分の世界。それは頑として自らが信じた道を進んでいくというよりも、そうするしかないみたい。だから辛くなる…。考えさせられる。
2024年パリ・オリンピックに向けて、社会がすべきこと。コミュニティの役割とそこからいかに社会のきちんと十分な受け皿を用意しない方針によって弾かれるか、そして薬物はじめ貧困に至る厳しい現実をしっかりと見据えている。詩的、幻想的な見た目とは裏腹に重たい題材を真摯に描いている。クリシェからは程遠く、決して扱う題材を軽視することもなく、最後まで見事なデビュー作。

勝手に関連作『アクエリアス』

すべて直せば解体できない
私達と月は隣人同士
宇宙で大切なのは空気
空の郊外

とぽとぽ